本研究の目的は、均衡型異常を代表とする染色体複雑構造異常について、ロングリードシークエンス解析により詳細な構造を明らかにすることである。これらの異常は既存の染色体解析方法では解析困難であるため、確定診断ができない先天異常患者が多数存在しており、臨床的な意義も非常に大きいと考えられた。 本年度は、解析が終了した症例1について学会発表を行い、学術誌に論文を投稿した。また、昨年度に解析を進めた追加の症例2、3についても解析を終了し、今後学会での報告を予定している。 解析結果について以下に簡潔に成果を述べる。 症例1は、脳形態異常を含む多発奇形と3番染色体長腕の腕内逆位を有していた。ロングリードシークエンス解析により、逆位の切断点が胎児期の脳形態形成に必須な転写因子の近傍を切断していることが明らかとなり、遺伝学的な確定診断に至った。本症例は当該遺伝子の異常による先天疾患について新規のメカニズムを示唆しており学術的にも興味深い結果であった。症例2と3はともに多発奇形と発達遅滞を示す患者であり、症例2は9番、17番、20番染色体の複雑な均衡型転座を有し、症例3は3番染色体短腕の逆位を有していた。ロングリードシークエンス解析を行った結果、切断点の詳細や欠失部位などの構造異常の詳細が明らかとなり、2症例ともに遺伝学的診断に至ることが可能であった。また、症例1については追加解析としてRNA転写解析(RNA-seq)を行った。3症例ともに、多職種カンファレンスによる臨床的な評価も施行した。 上記、解析を施行した3症例のいずれも、本解析以外では遺伝学的な確定診断に至ることは困難な症例であった。本研究により、均衡型異常を代表とする染色体複雑構造異常による先天異常について、ロングリードシークエンス解析が非常に有用な解析であることが改めて示され、臨床的に意義が大きいと考えられた。
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