研究課題/領域番号 |
20K16947
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
林 明宏 旭川医科大学, 医学部, 特任助教 (30459573)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | digital PCR / digital 細胞診 / リキッドバイオプシー / 膵腫瘍 |
研究実績の概要 |
細胞診や組織診は、治療方針の決め手となる情報を得てはじめて、「侵襲」を受けた患者へ報いることができる。しかし実臨床では、「検体不適」「鑑別困難」と判定される場合が少なくない。このような微量検体における診断上問題を克服すべく、細胞一つひとつのレベルで癌細胞のもつ遺伝子異常を正確に判定できる「デジタル細胞診」を提案する。本研究では、きわめて微量な検体の場合にも確実に結果を出せる、実地臨床で適確、迅速、安価に運用可能なシステム構築に挑戦する。その具体的方法は、「ナノ液滴への細胞封入」によるシングルセル解析であり、微量核酸の絶対定量に威力を発揮する digital PCR装置をもって、形態診断の限界を超える細胞分析の新手法を実現することを目的とする。膵癌では多くの場合、KRASの点突然変異を伴い前駆病変が発生し、CDKN2A、TP53やSMAD4などの癌抑制遺伝子の不活化を経て、浸潤癌へ進展する。従って、これらの遺伝子異常を的確かつ低侵襲に捉えることができれば、内視鏡診断の確実性を高めることができると考える。生検などによって得られた生体試料から、膵癌の大多数において見られるKRAS変異を検出できれば、病理診断を補足する事が可能となる。本研究では、針生検などで得られる微量検体を試料として核酸精製行程をスキップし、digital PCR の基本技術を応用して腫瘍由来のKRAS変異を検出することにより、迅速かつ高精度・低コストな診断法の開発を行った。今回、我々が開発した技術の特徴は、腫瘍組織から得られた癌細胞をわずかでも含む微量検体をWater-burst法によって細胞破壊し、癌細胞由来の遺伝子変異を高感度測定することを原理としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の成果をTime-saving method for directly amplifying and capturing a minimal amount of pancreatic tumor-derived mutations from fine-needle aspirates using digital PCR(微量組織検体中の体細胞変異の検出を可能にする迅速デジタルPCR解析法の開発)として論文発表した(Sci Rep 10; 12332, 2020 )
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、KRASの代表的なhot spot変異をカバーする検証済みのスクリーニングキット(市販品)を用いて解析を行ったが、この系では複数あるKRASの変異タイプの特定には至らない。膵癌のゲノムレベルでの多様性を考えた場合、この点は大きな課題となる。また、KRAS変異は膵癌の前駆病変の発生段階からみられるため、同変異の検出をもって膵癌と断定することは困難である。従って、TP53やSMAD4などの癌抑制遺伝子の異常を同時検出できるような解析技術の開発が求められる。我々は主要なKRAS及び他の遺伝子の変異を、dPCR反応系の蛍光強度の2D空間情報を用いて同定する新しい多重解析法の開発を進めている。さらに、スタンダードなdPCRシステムでは、FAMとHEXという2種類の蛍光を利用して変異及び野生型のDNA検出を行うが、最新型のプラットフォームにより4カラーの多重蛍光を同時検出することが可能となった。このようなツールを用いた遺伝子検出法によって、複数の遺伝子異常、例えばKRASに加えTP53やSMAD4の変異を同時検出することが原理的に可能となり、今後、そのような新技術を早期に臨床応用するために、多数例を対象とした前向き臨床研究を行う必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度はコロナウイルスの影響で出張禁止となり、旅費を計上出来なかったため次年度使用額が生じた。 次年度の感染状況をみて、旅費または物品費として計上する予定である。
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