細胞診や組織診は、治療方針の決め手となる情報を得てはじめて、「侵襲」を受けた患者へ報いることができる。しかし実臨床では、検体不適と判定される場合が少なくない。このような微量検体における診断上問題を克服すべく、細胞一つひとつのレベルで癌細胞のもつ遺伝子異常を正確に判定できる「デジタル細胞診」の開発を目指した。 本研究では、膵腫瘍患者を対象に、実地臨床で適確・迅速・安価に運用可能な診断システムに必要な解析系を構築した。具体的方法として、微量核酸の絶対定量に威力を発揮する digital PCR装置を用いて、生検等の生体試料から核酸精製行程をスキップし、「液滴への核酸封入」によりドライバー変異を迅速に検出する方法を開発した(Water-burst法:特願20-192P)。2021年度は本法を用いて膵癌で高頻度に見られる遺伝子変異のうちKRAS変異を有無を検出する系を改良し、各種変異型KRASに対する特異的プローブ(架橋型人工核酸LNAを使用)の混合比を調整することにより、特定の変異タイプ(バリアント)を特定することが可能となった(論文投稿中)。 今後は、KRASに加えてCDKN2A、TP53やSMAD4などの癌抑制遺伝子を同時に検出可能な系へと発展させたい。これらの遺伝子異常を的確かつ低侵襲に捉えることができれば、内視鏡診断の確実性を高めることができると期待される。
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