ヒト大腸癌オルガノイドと口腔内から単離したフソバクテリウムを用いて、フソバクテリウムが大腸癌の発癌や進展にもたらす影響を明らかにすることが本研究の目的である。過去2年間で、臨床検体からオルガノイドを安定的に立ち上げる技術を確立し、フソバクテリウムの感染を契機にオルガノイドに形態変化が起こり、細胞の増殖能や遊走能が向上することを示す、表現型を得ることができた。この変化はがんの進展に重要な上皮間葉転換と関連があると考えられ、最終年度の本年は、示された表現型を、RT-PCR、蛍光免疫染色、ウェスタンブロッティングを用いて分子生物学的な側面から証明することと、実際に免疫抑制マウスにヒト大腸癌オルガノイドを移植するゼノグラフトモデルを用いて個体レベルで証明することを目標として研究を進めた。 RT-PCRは回収したRNAがうまく増幅できないトラブルがあり、検証の結果、オルガノイドの長期培養により遺伝子変化が起こりうること、回収したRNAが断片化していたことが判明した。そのトラブルシューティングに時間を要したものの、その後のRT-PCRは順調に機能し、有意差をもって感染前後変化について証明ができるデータを得た。上皮間葉転換の促進を証明するための免疫染色では、間葉系のマーカーのN-cadherinは染色されるものの、その他のα-SMA、ビメンチンが上手く染色できていない。現在、原因について検討中で、他の項目についても染色を試している。転移能を評価するマウスモデルとして、オルガノイドをマウス脾臓に移植し肝転移させるモデルを考案、樹立した。肝転移の組織像はオルガノイドを皮下移植した際に得られる腫瘤と類似した組織像である。フソバクテリウムの感染により転移数は増えたように見えるが、今後、個体数を増やして有意差について検証が必要である。 来年度中には得られた成果を論文として発表したいと考えている。
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