研究課題
老化ヒト肝星細胞(HSC)ではANGPTL4・IL-8・PF4V1(以下、老化3因子)の遺伝子発現が増加しており、本研究ではこの老化3因子に注目して、肝がん細胞の増殖、血管新生、炎症細胞浸潤などの観点から、老化3因子が肝がん病態進展に与える影響を検証することを目的としている。HSCの老化3因子であるPF4V1の生理機能に着目し、肝がん細胞(HepG2、Li-7、HLE、Huh-7)にPF4V1蛋白を添加して増殖能に与える影響を解析したが、有意な変化は認められず、肝がん細胞の増殖能への直接的関与は否定的と考えられた。血管新生に与える影響については、血管内皮細胞の老化に伴う形質の変化についても解析が必要と考え、市販のヒト類洞内皮細胞(LSEC)を用いて継代による細胞老化を誘導し、遺伝子発現解析を行った。継代培養を繰り返したLSEC(SA-β-Gal陽性)と若いLESC(SA-β-Gal陰性)のサンプルにおいて、HSCで特定された老化3因子の遺伝子発現と、IL-8の受容体として知られているCXCR1・CXCR2の遺伝子発現を測定した。その結果、ANGPTL4とPF4V1の遺伝子発現は老化LSECで増加していることが判明し、これらの因子はLSECにも共通した老化分泌因子であることが示唆された。一方、IL-8の遺伝子発現は老化LSECで低下し、CXCR1・CXCR2の遺伝子発現はLSECではほとんど見られず、IL-8はLSECにおいては有意な生理機能は有していない可能性が考えられた。
3: やや遅れている
新型コロナウイルス感染拡大に伴う実験時間の制約などから実験計画に遅れが生じた。老化肝星細胞との機能的クロストークについて解析するため、市販の肝類洞内皮細胞を用いて老化類洞内皮細胞モデルを構築を試みたが達成できなかった。
①解析に用いる肝細胞、類洞内皮細胞、肝星細胞などの不死化ヒト細胞を樹立し、PF4V1やANGPTL4の受容体発現などを検討するとともに、各細胞に対するこれらの因子の機能解析を進める。②DEN誘導肝発がんモデルマウスを使用し、肝臓におけるがん部・非がん部の老化肝星細胞を二重蛍光免疫染色によって特定し、その分布を評価する。また、ヒト老化肝星細胞における結果がマウスでも再現されるのかを確認するため、マウスの肝臓から肝星細胞を単離し、ERKのリン酸化亢進をウェスタンブロットで解析するとともに、qPCRによりその遺伝子発現変動を解析することで老化3因子の遺伝子発現が増加しているのかを確認する。③慢性肝疾患の例として慢性C型肝炎に注目し、慢性C型肝炎治癒後に肝発がんした患者に注目し、C型肝炎治癒後に発がんした症例と発がんしなかった症例の肝組織切片を解析し、腫瘍部および非腫瘍部の肝星細胞を解析する。二重蛍光免疫染色法により、典型的な細胞老化マーカー(p21、p16)と肝星細胞のマーカー(αSMA・CYGB)を指標として、老化肝星細胞(sHSC)の同定を試みる。さらに、老化肝星細胞の分布と患者の臨床経過(患者背景、肝炎に対する治療内容、肝組織所見、発がん時の治療後経過年数など)との関連性についても解析する。
実験計画に遅れが生じているため、予定としていた使用額に達せず、次年度使用額が生じた。
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日本内科学会雑誌
巻: 111 ページ: 15-21
Clin Mol Hepatol.
巻: 27 ページ: 413-424
10.3350/cmh.2020.0187