研究実績の概要 |
我々は、心臓リンパ管に独自の細胞起源(Maruyama et al., 2019)や発生を調節するシグナル(Maruyama et al, 2021)があることを発表した。しかしながらなぜ心臓に独自のリンパ管発生様式があるのか、その生物学的な意義は不明瞭であった。本研究では、これまでの実績を発展させ、さまざまな遺伝子改変マウスを用いて、リンパ管内皮細胞の細胞系譜を詳細に解析した。その結果、我々が心臓リンパ管として発見したリンパ管内皮細胞の起源は頭頸部領域と心臓領域に共通のリンパ管内皮細胞の起源である事が明らかとなった。こうした細胞領域は心臓や頭頸部領域の筋組織の前駆細胞であるcardio pharyngeal mesoderm(CPM)であり、リンパ管が頭頸部の筋肉系前駆細胞と共通の起源を持つことを明らかにした。CPM由来のリンパ管はこれまで知られていたリンパ管内皮細胞の発生様式とは解剖学的にも時空間的にも異なる独自の発生様式を経ており、こうした所見は新たなリンパ管の発生調節様式が存在する事を示唆する。 また、魚類では心臓、頭頸部のリンパ管が体部のリンパ管とは異なる発生様式をとる事が知られていたが、本研究により進化上保存された発生様式の一端を解明した。 さらにヒト難治性疾患であるリンパ管奇形は頭頸部、縦隔領域に好発する事が知られていたが、本研究によりリンパ管奇形の解剖学的好発部位の説明がつくようになった。本研究はこれまで静脈の分化転換のみにより形成されると考えられてきたリンパ管の新たな発生様式を明らかにし、さらに進化上保存されたリンパ管の発生様式やリンパ管疾患の病態解明へとつながる重要な研究である。また本研究は、リンパ管発生を制御する新たな分子シグナルの発見や治療薬開発の基盤となる重要な研究となった。
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