研究課題
肺Mycobacterium avium complex (MAC)症は、近年患者数の増加が著しい慢性呼吸器疾患であるが、発症機序は解明されておらず、有効な治療法も確立されていない。当研究グループのこれまで検討により、肺組織において細胞内のpH制御に関わるCHP2 (calcineurin like EF-hand protein 2)遺伝子の発現量低下が肺MAC症の発症に関連している可能性が示された(Namkoongら, 2021)。本研究は、肺MAC症の新たな発症機序として「CHP2遺伝子の発現量が低下したことで、MAC感染時における細胞内pH制御に基づいた炎症応答および殺菌機構が阻害される」という仮説を立て、これを検証することを目的とした。今年度は、培養細胞株をもちいてCHP2がMAC感染時における炎症応答に関与していることの証明を試みた。ヒト肺胞上皮細胞株A549について、既に作成したCHP2遺伝子のノックダウン株(CHP2KD)に加えて、CHP2遺伝子を過剰発現させた株(CHP2OE)を作成した。Mycobacterium avium subsp. hominissuis TH135株をCHP2KD, CHP2OEおよび野生型細胞株に感染させ、感染5時間後の細胞株を回収してRNAseq解析を行い、細胞株の遺伝子発現プロファイルを取得した。比較対照には非感染細胞株を用いた。現在得られたデータの解析を行っており、予備的に得られている結果の再確認と、CHP2OEのMAC感染時の遺伝子発現を解明する予定である。また、現在ヒト気道上皮細胞株BEAS-2B、ヒト気管支上皮細胞株HBEC3-KTについても同様にCHP2KDおよびCHP2OEの作成を進めており、細胞株の種類による遺伝子発現解析プロファイルの共通点や相違点を明らかにする予定である。
3: やや遅れている
今年度は、新型コロナウイルス感染症対策行動計画に従い、一定期間研究活動の自粛を余儀なくされたため、本研究計画遂行のための十分な時間を確保できずにいた。
まず、2種類の細胞株BEAS-2BおよびHBEC3-KTについて、CHP2KDおよびCHP2OEを作成する。既に作成しているA549細胞株とあわせて、MAC感染時におけるCHP2遺伝子の働きを調べる。赤色蛍光タンパク質DsRedをプラスミドにより導入したM. avium subsp. hominissuis TH135株を、3種類のCHP2KD, CHP2OEおよび野生型細胞株に感染させる。感染直後、5時間、12時間、および24時間経過後の細胞株を回収して固定後、DsRed陽性の細胞のみをFACS法により分画し、RNAseq解析を行い、感染後時間経過にともなう細胞株の遺伝子発現プロファイルを取得する。上記により、CHP2KDおよびCHP2OE細胞株と野生型細胞株で検出される発現変動遺伝子の違いを明らかにする。さらに培養上清に分泌されているタンパクを用いて、MAC感染後時間経過にともなうケモカインや炎症メディエーターの発現をLuminex assayにより測定する。これらの結果からCHP2がMAC感染時の炎症応答に関与していることを証明する。
当該年度は主に、参加予定の学会等の参加費や旅費に関する支出がなかったため、次年度使用額が生じた。次年度の旅費または消耗品に使用する。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 産業財産権 (4件) (うち外国 1件)
EBioMedicine
巻: 64 ページ: 103187
10.1016/j.ebiom.2020.103187
European Respiratory Journal
巻: 57 ページ: 1902269
10.1183/13993003.02269-2019
Microbiology Resource Announcements
巻: 10 ページ: e00020-21
10.1128/MRA.00020-21
Emerging Microbes & Infections
巻: 10 ページ: 220-222
10.1080/22221751.2021.1878935
Microbiology
巻: 167 ページ: NA
10.1099/mic.0.001007