今年度は引き続き肝芽腫に特異的に高発現するADAM32の発現制御メカニズムの検討を行いました。昨年度までの研究で、固形がんの微小環境である低酸素下においてADAM32発現が亢進するメカニズムとして、m6Aメチル化が関与していることを見出しました。そして、m6A関連分子であるIGF2BP2がADAM32の上流分子として関与している可能性を見出しました。今年度はIGF2BP2によるADAM32発現制御の詳細を検討しました。IGF2BP2をノックダウンしたところADAM32mRNAの発現が低下しました。また、IGF2BP2をノックダウンした肝芽腫細胞株では、低酸素下におけるADAM32の発現亢進が起こりませんでした。以上のことから、低酸素環境下におけるADAM32の発現亢進には上流分子であるIGF2BP2が重要な役割をしていることが示唆されました。また、低酸素下においてADAM32mRNAよりもタンパクが先行して発現亢進することが分かりました。ADAM32タンパクの安定性を検討したところ、低酸素下で安定性が亢進していました。以上のことから、低酸素下におけるADAM32の発現亢進にはmRNA、タンパク、各々の発現制御メカニズムが関与していることが示唆されました。 一方、ADAM32の発現を制御できる可能性のある化合物の探索をデーターベースを用いて行ったところ、Harmineが見出されました。Harmineを肝芽腫細胞株に加えたところ、ADAM32の発現が低下することが分かりました。機能解析を進めたところ、Harmineにより肝芽腫細胞株のcell viabilityが低下することや、肝芽腫の治療に用いられるシスプラチンに対する感受性が変化することが分かりました。以上のことからHarmineは肝芽腫に対し制がん作用があることが示唆されました。
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