乳癌の微小環境における腫瘍免疫の制御は、乳癌の転移・再発を抑制するための重要な戦略の1つである。脂質メディエーターは腫瘍免疫微小環境の調節因子の1つであり、セラミドは細胞死に、S1Pは細胞生存に関与する。細胞内における両者のバランス(Sphingolipid rheostat)により、細胞の運命が決定する。グルコシルセラミドはセラミド前区物質であり、抗腫瘍効果が報告されている。 【課題A、C】乳癌腫瘍免疫微小環境においてグルコシルセラミド内服投与による腫瘍進展への影響を検証した。乳癌モデルマウスを作製し、グルコシルセラミドを連日内服投与する群(Glu-Cer群)と非投与群(Control群)に分け、①腫瘍体積の比較②リピドミクス解析による脂質メディエーター濃度の比較③RNAシークエンス解析による免疫微小環境分子のRNA発現相対値の比較を行った。結果は、①Glu-Cer群の腫瘍体積はControl群よりも有意に小さく、②Glu-Cer群のCeramide/S1P比が有意に高かった。③獲得免疫応答を活性化させるMacrophage-inducible C-type lectinのRNA発現量において、Glu-Cer群がControl群よりも高い傾向を示した。 【課題B】術前化学療法を施行した患者における脂質メディエーター濃度と臨床データとの関連を検討した。術前化学療法群は非施行群よりもグルコシルセラミド濃度は有意に高かった。術前臨床病期III期の群がII期の群よりも有意にグルコシルセラミド濃度が高かった。ホルモン受容体やHER2発現、Ki-67、核グレード分類、組織学的治療効果判定では有意差を認めなかった。 グルコシルセラミド経口投与により腫瘍発育の抑制を認めた背景として脂質メディエーターのバランス変化、腫瘍微小環境における分子の発現変化が考えられた。
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