癌幹細胞は、腫瘍組織中で少数の細胞集団として存在し、自己複製能と多分化能、高い造腫瘍能を特徴とする。癌の増殖、転移に関わっており、大腸癌薬物療法の主軸として使用される5FUやOxaliplatinの薬剤耐性においても関与が知られている。2015年には、大腸癌においてHOXA5が癌幹細胞からの分化、つまり「脱癌幹細胞化」を促進する分子として報告された。Lgr5やDCLK1、CD44v9など癌細胞マーカーを治療標的とした研究は多いが、「脱癌幹細胞マーカー」に着目した研究はほとんどない。HOXA5の制御機構は、現在までの報告からエピゲノムの関与が示唆され、殺細胞性抗癌薬に対する耐性を獲得した癌幹細胞に対してHDAC阻害剤やDNAメチル化阻害薬によるHOXA5のエピゲノム調節を行うことで、癌幹細胞から娘細胞への分化促進を介して耐性を克服できると考えられる。以上、エピゲノム制御による癌幹細胞を標的とした治療抵抗性の克服と、そのメカニズムを明らかにすることを目的として本研究を計画した。 まず、当院で手術した大腸癌臨床検体を用いて、免疫組織学的染色を行った。約100例の免疫組織学的染色により、HOXA5は大腸癌患者の予後との相関があることを確認した。また、細胞実験においては、大腸癌細胞株において、DNAメチル化阻害薬やHDAC阻害薬などのエピゲノム調節薬により、大腸癌細胞株におけるHOXA5の発現量が変化することを細胞実験で確認した。今後、エピゲノム調節によるHOXA5の発現量調節により、大腸癌の悪性度低下に繋げられるかについて検証していく。
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