研究課題/領域番号 |
20K17728
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
鳥崎 友紀子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (30867487)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 虚血再灌流 / 水素 / 末梢血管 / マウスモデル |
研究実績の概要 |
虚血再灌流障害とは、虚血が生じた部位に血流が再開し急激な酸素負荷が生じることで、虚血部位のみならず遠隔臓器にも障害を生ずる病態のことである。細胞死を起こす前に虚血が解除され血流が再開すると、急激な酸素負荷によってミトコンドリア内での好気性代謝が急激に回復することで、活性酸素種(ROS: reactive oxygen species)産生が増加し、細胞障害が起こるとされている。このような虚血再灌流障害に伴って発生するROSに対して、水素が選択的な抗酸化作用を有していることが示されており、現在、種々の酸化ストレス反応に対する水素の抑制的な効果を示した研究が報告されている。一方、水素の酸化ストレス抑制作用について、無細胞系と細胞培養系を用いた実験での提唱はあるものの、生体内でのメカニズムの解明には至っていない。本研究では下肢虚血再灌流モデルマウスに水素ガスを吸入投与することによってROSが減少することを、リアルタイムイメージングシステムを用いて観察することと、ROSの減少によって虚血再灌流に伴う組織の酸化障害が抑制されることの証明を目的としている。 当初、本研究の施行に際して予定していた蛍光顕微鏡による観察が困難となったため、我々は、人工呼吸器管理下の下肢虚血再灌流マウスモデルを、本学所有の組織レベルでのin vivoイメージングが可能なマルチアプリケーションイメージングシステムで観察する実験系を確立した。 本年度は得られたデータに対するさらなる解析を行い、虚血再灌流によって皮下組織内のROS発生が上昇することに加え、再灌流後一定の時間でROSの発生はピークに達することが示唆された。同時に行った病理組織学的評価では、下肢虚血再灌流モデルマウスの筋組織に対する8-OHdG染色によって複数の細胞核が染色される所見を認めており、虚血再灌流によってROSの発生及びDNA酸化障害が生じていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
下肢虚血再灌流障害に伴って発生するROSのリアルタイムイメージングの実現に際しては、当初、研究協力者(他施設)の独自に確立した生体蛍光顕微鏡システムを用いることを予定していたが、2020年2月以降、COVID-19の感染流行が拡大したことによって、他施設での実験および研究協力者との共同研究が困難となり、自施設でのシステムを開発したため遅れが生じた。加えて、本学所有のイメージングシステム下での水素吸入の実験系を再現性をもって確率することに難渋したため、プロジェクト全体としてやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
人工呼吸器管理下の下肢虚血再灌流モデルマウスに対してAPFを皮下注射し、組織レベルでのROSの動態をリアルタイムイメージングとして撮像するという現行の実験を継続する。また、ROSの発生に関する病理組織学的および生化学的な評価についても検討を重ね、ROSの発生やその分布がリアルタイムイメージングによって得られた所見と局在性の一致が得られるかを検証する。 これらの検討によって、下肢虚血再灌流モデルおよび同モデルの水素吸入投与下におけるROSの発生動態をin vivoレベルで示し、水素による下肢虚血再灌流障害の抑制効果を視覚的に証明することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度については、自施設でのリアルタイムイメージングシステム下で、下肢虚血再灌流モデルマウスに対して水素吸入投与を行っての撮像が不十分であったため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は撮像サンプル数を増加させるためのマウス購入や試薬購入に充てることを計画する。また、当初の研究計画に遅延が生じていることを考慮して、下肢虚血再灌流モデルを用いた撮像実験ならびにROSの発生に関する病理組織学的および生化学的評価について、引き続き研究補助員の雇用を要する見込みであり、人件費に充てる。
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