研究実績の概要 |
停留精巣は造精機能障害をきたすがその病態は未解明である。生殖補助医療により、精子採取ができれば受精は可能になったが、精細胞の分化異常に対する治療法はない。性成熟期のセルトリ細胞は局所でホルモン分泌や細胞間接着の成立を介して精子形成を支持する役割を果たす。本研究では、性成熟期に隣接するセルトリ細胞間に形成される血液精巣関門(Blood-testis barrier: BTB) に着目し、BTBが停留精巣での精子形成に与える影響を検討した。 (方法) 妊娠ラット胎児期にflutamideを暴露させ停留精巣モデルラットを作成し、思春期にあたる生後4~6週の精巣を経時的に採取した。コントロール、下降精巣、停留精巣に分けて、1)精巣組織学的所見 2)BTB構成蛋白質(CLDN11,OCLD,Zo1)の発現解析(Western-blotting(WB)、免疫染色) 3)アポトーシス評価(TUNEL法) 4)精細胞の分化 5)透過電子顕微鏡(TEM)を用いたBTBの超微細構造解析を比較検討した。(結果) 1)停留精巣では生後6週、精母細胞で分化が停止していた。2)WBではCLDN11,OCLD,Zo1の発現量に差はないが、免疫染色は生後5週以降でCLDN11局在がコントロールと停留精巣で異なっていた。すなわち、停留精巣ではCLDN11タンパクが精細管の基底膜に対して垂直方向に発現する異常な局在を示した。3)生後5週以降でTUNEL陽性精細胞数は停留精巣で有意に多く、BTBが破綻した周囲の精細胞が陽性であった。4)コントロール、下降精巣、停留精巣とも精細胞はStra8, SCP3が陽性で第一減数分裂完了まで分化していることが確認された。5)TEM試料作成時に硝酸ランタンを全身灌流させたところ、停留精巣ではBTBを透過して精細管内腔まで浸透しBTBの機能不全が観察された。
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