TRPV1は、皮膚に発現が認められており、痛みや化学物質のセンサーとしてだけでなく、炎症誘導と抗炎症作用の双方に影響を有すると推察されている。リンパ浮腫のメカニズムとして慢性炎症が着目されており、その予備実験として、TRPV1と皮膚創傷治癒過程における炎症の関連性について検討した。 実験には、Trpv1遺伝子欠損(KO)マウスと対照群の野生型(WT)マウスを用いた。それぞれの背部皮膚に直径5.0mmの円形の全層皮膚欠損創を作製した。皮膚欠損創作成後(POD: post-operative days; 0、2、4、7、10、14)、肉眼的観察、組織学的解析から治癒過程を評価した。 POD7と10の時点では、KOマウスは皮膚欠損の範囲が広域であった。POD7におけるKOマウスの再上皮化は、WTマウスに比べ遅延していることがHE染色で観察された。炎症期に動員され、その後に漸減するとされる好中球数は、WTマウスにおいてはPOD4からPOD7にかけて減少を認めたものの、Trpv1 KOマウスでは減少が観察されなかった。マクロファージ数は明らかな差を認めなかった。H3Citで標識されたNETs(Neutrophil Extracellular Traps)形成は、POD4およびPOD7の両方で、WTマウスと比較してTrpv1 KOマウスで増加した。以上の結果より、TRPV1チャネルは、好中球性の炎症反応を制御し、マウス皮膚創傷治癒に重要なTRPチャネルである可能性が示唆された。今回の成果により、今後TRPV1を含む複数のチャネル遺伝子群の関与を遺伝子改変マウスモデル系でさらに解析する必要がある事が示された。また、NETs形成とそれらTRP遺伝子間の関係も今後の興味深いトピックと考えられた。
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