本研究計画は、味蕾幹細胞の3次元培養技術である「味蕾オルガノイド」を軸に、味細胞の機能的極性形成メカニズムの解明を目指したものである。味蕾オルガノイドは味蕾幹細胞を含む細胞群をマウス舌有郭乳頭周囲より採集し様々な成長因子を含む培地で培養することで、分化した成熟味細胞を多数含むコロニーを得ることが出来る。現在我々が用いている方法でオルガノイドを作成すると、最終的に出現してくるコロニーの形態には多様性があり、味細胞を含むもの、含まないもの、細胞の配列に極性があるもの、ないものと様々なコロニーが観察される。本研究では、II型味細胞にGFPが発現する遺伝子改変マウスの舌組織を用いて作成した味蕾オルガノイドを共焦点レーザー顕微鏡下で観察することで、GFP発現味細胞の配向を目視で観察し、種々の形態を持つ単一コロニーを分取した。分取したコロニーを用いて免疫染色を行った結果、細胞配列の極性の有無に関わらずコロニー中の味細胞の頂端部には微絨毛のマーカー分子であるvillinが発現していることがわかった。これは細胞塊の中で味細胞は細胞極性(味孔側と基底膜側)を獲得していることを示唆する。またこれとは別に、味神経の細胞体を含む神経節を摘出し、培養することを試みた。2次元培養した神経細胞にカルシウムインジケーターを取り込ませ、刺激溶液を潅流させることで、単一の神経細胞の細胞内カルシウム濃度の上昇を観察することに成功した。本研究で得られた実験結果の一部を、味と匂学会第55回大会、第63回歯科基礎医学会大会にて発表した。
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