研究課題/領域番号 |
20K18754
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上村 夢 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (90848251)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | レチノイン酸 / 口唇口蓋裂 / 二次口蓋 / 顎顔面筋 / 舌運動 |
研究実績の概要 |
口唇口蓋裂は顎顔面形成異常の中でも頻度の高い先天性異常であり、多様な表現型を示し、それぞれの症状のメカニズムは完全には理解されていない。過去の研究や代表者の所属する研究室のこれまでの研究結果から胎生時におけるレチノイン酸(RA)シグナルの異常が上記病態に関与することが証明されている。また、代表者の研究室ではRAを過剰摂取させ口蓋裂を発症したマウスにおいて舌骨筋を含む顎顔面の筋肉の欠損や変性がみられることを既に確認している。RA過剰摂取マウスの上顎複合体のみを器官培養すると口蓋裂が発症しないという報告はすでに世界的に知られており、口蓋裂の発生には下顎や周囲の顎顔面筋が関与している可能性が示唆されているが、生体内で確認した研究は過去に存在しない。そこで、本研究では母体にRAを投与し口蓋裂を発症したマウスの顎顔面、特に舌運動に関連する筋肉の形態および組織学的表現型、筋肉の機能を詳細に解析し、口蓋裂の発症に関連するRAシグナルの機能解明を行う。 今年度は、顎の動きと顔の表情に不可欠である第一・第二鰓弓筋に着目し、鰓弓筋発達におけるRAシグナル伝達の役割を解明する為に以下の実験を行った。胎生8.5-10.5日の妊娠マウスに胃挿管にてオールトランスRAを投与した結果、胎生13.5日では、第一・第二鰓弓筋に由来する筋肉が影響を受けているかは確認できなかったが、他の頭蓋顔面筋の形成不全が確認され、さらにRA投与群における鰓弓中胚葉細胞にて細胞死の上昇を検出した。これらの結果は、過剰なRAシグナル伝達が、鰓弓筋の前駆細胞の生存率を低下させ、頭蓋顔面筋の形成不全をもたらす可能性を強く示唆する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究に用いる母体のRA過剰摂取により口蓋裂を発症したマウスの作製は当研究室で既に完成しており、同マウスにおいて顎顔面の筋肉の形成異常(側頭筋、咬筋、舌骨筋、顎二腹筋等の欠失や減少)が生じることも既に確認しており、本研究を遂行する基盤的な準備はできている。これらのことから、RA過剰摂取により引き起こされる口蓋裂と、顎顔面の筋肉の形成異常の関係が強く示唆され、この顎顔面の筋肉の解剖学的・組織学的な変化や、二次口蓋癒合時の動態を詳細に探索する事によりに二次口蓋の癒合のメカニズムの解析が可能である。事前の研究計画も適切であった。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、表現型が確認できたマウスの上顎複合体を摘出し、網羅的な遺伝子発現解析を行い、RAシグナルの低下によって影響を受けるシグナル経路を同定する。また、RNAseq等のトランスクリプトーム解析を行うことにより、RAシグナル経路の変化によってもたらされるRNAサプライシング等も同時に解析することが可能となる。上記の解析と並行して、次の解析を行う。①スクラッチアッセイによる同マウスにおける細胞移動の動態の観察、②RA投与後、二次口蓋癒合時期の胎児に電気ショックを与えることで舌運動を司る筋肉の収縮を人工的に生じさせ、口蓋裂の発症の有無を確認する。以上の実験により、顎顔面の筋肉が細胞増殖・細胞移動し、分化し、実際に機能するまでを網羅的に解析することができる。これらの情報を統合することで、口唇口蓋裂の病態を予防、緩和する方法を探索する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
論文投稿費として使用予定であるが、論文は現在査読中であるため次年度へ繰り越すこととなった。
|