本研究の目的は歴史的に繰り返されている精神科病院での医療者による非倫理的行動の原因を明らかにすることである。令和2年度時点の研究計画では、非倫理的行動を引き起こす可能性のあるパーソナリティとしてDark Triadに着目し、倫理的行動との関連を明らかにすることを目指していた。しかし、研究を進めていくにあたり、看護師の倫理や道徳に関する研究は様々な視点から尺度作成や調査が実施されており、多様な見解や結果の非一貫性が見られることが明らかになった。 そこで、本研究では「精神科看護師の倫理的行動」を構造化して理解するために、問題を俯瞰し研究課題の抽出から始める必要があると考え、国内外の精神科看護師を対象とした倫理や道徳に関する文献を再検討した。その結果、精神科看護師の倫理・道徳に関する研究の視点として環境要因に対する知見が不足しているという課題が見出されたため、本研究の焦点を精神科病院の倫理的風土とし調査を行うこととした。 本研究の研究デザインは無記名自記式質問紙を用いた横断研究であり、全国の精神科病院14施設に所属する949名の看護職者を対象に調査を行った。調査内容は基本属性及び日本語版倫理的風土測定尺度、組織風土尺度、協同作業認識尺度、日本語版バーンアウト尺度であり、日本語版倫理的風土測定尺度を従属変数とする重回帰分析の結果、組織風土尺度の下位因子である「柔軟性・創造性・大局的」、「自由闊達・開放的」、「権威主義・責任回避」、協同作業認識尺度の下位因子である「個人志向因子」、「協同効用因子」が倫理的風土に影響を及ぼす要因であった。 この結果から、組織における倫理的風土を向上させるためには、権威が弱いと考えられる看護者を含めたすべての看護者の倫理的な感性を対等に扱い、個々の道徳的感受性や倫理観が看護実践に反映させられるような風土を作ることが必要であると考えられた。
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