本研究は、人間の生活環境において動作するロボットが、環境を能動的に探索し得られるマルチモーダルな観測情報から効率的に場所の概念や語彙を獲得するための手法の実現に取り組むものである。ロボットによる能動的な探索は、ユーザに多大な作業負担を要する学習用データの収集を人手に頼らず実現できるという利点がある。また、ロボット自らが内部状態の不確実性を減らすように意思決定をすることで、学習や推論における性能向上を実現する。 当該年度の主な実績は、(1)空間認知を司る脳部位である海馬体を参照した確率的生成モデルの提案、(2)常識的知識と現場知識との統合による素早い環境適応である。 (1)では、工学的な空間認識のモデルに対し海馬体の構造と機能を対応付けることで新たな空間認知のモデルを構築するに至った。関連して、より安定した自己位置推定やナビゲーションを実現するための示唆を得た。 (2)では、これまでの場所概念形成のモデルに加えて、確率論理の基づく常識的知識を活用することにより、新たな環境へロボットを導入する際の環境適応のための学習コストを低減することを実現した。この成果は国際会議においてBest Paper Awardを獲得した。 この他に、場所概念と環境地図の同時推定モデルであるSpCoSLAMにおいて実世界での能動探索を実現した。また、場所概念形成の確率的生成モデル上での情報利得に基づく能動探索と自由エネルギー原理に基づく能動的推論との数理的な関係性についての知見を深めた。これらの成果について論文を投稿した。
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