研究課題/領域番号 |
20K19964
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
青柳 智 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (10812761)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | メタン発酵 / 酢酸 / 嫌気リアクター / 高感度SIP / Stable Isotope Probing / 環境微生物 |
研究実績の概要 |
本研究は代表者が近年開発した、微生物の機能同定法「高感度SIP」に基づいた動態解析を、大規模データ解析と融合することで、廃水処理プロセスの高精度な処理性能予測・微生物動態制御という長年の課題に対する科学的基盤の構築を目指すものである。本研究最大の目的・目標は、大規模データで構築される「相関解析に基づくネットワーク解析」に加え、「高感度SIP」で、廃水処理プロセスの鍵微生物の同定・その動態解析を駆使した「機能ベースのネットワーク解析」を融合させることで、廃水処理プロセスの中核微生物制御を可能にする予測モデルを構築することである。 〔課題1〕負荷変動型メタン発酵バイオリアクターによる微生物大規模データ取得において、今年度はグルコースを主とした人工廃水で10Lの嫌気バイオリアクター装置で460日以上の連続運転を実施した。これにより、モデルとなるメタン発酵プロセスの構築を完了した。また連続300日以上の長期安定処理運転を継続した後に、それぞれ1ヶ月以上の人為的なかく乱運転を2つの条件にて行った。プロセスの律速段階である有機物は、かく乱運転時に高濃度の蓄積が観察された酢酸とプロピオン酸に特定した。バイオリアクター運転期間を通したバイオガス発生量、有機酸蓄積濃度などの各種化学パラメータの取得および大規模微生物群集構造の解析を実施している。 〔課題2〕高感度SIPによるメタン発酵プロセスの安定化・高効率化を担う有機酸分解微生物群の同定については、課題1より酢酸とプロピオン酸を分解する微生物をターゲットに決定した。課題1のリアクターから取得した汚泥を用いて、13C標識された有機酸、非標識の有機酸などの実験系を用意し、高感度SIP培養を実施した。培養汚泥からRNAを抽出し、超遠心で密度ごとに分離し、13C標識有機酸由来の13Cを分解し取り込んだ微生物の網羅的な同定を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は課題1および2で、以下のように研究課題が達成できた。 〔課題1〕全体で1年以上のメタン発酵バイオリアクター運転を実施を予定していた。実際には合計で460日以上の連続運転を行い、そのうち連続300日以上は、安定な有機物処理・バイオガス生産を継続できた。加えて、人為的なかく乱により不安定化を誘引する運転を2条件で試験できたことにより、未知微生物群の生理・性質の解析・考察に足るデータを取得することができた。なお処理不安定化時には酢酸とプロピオン酸の蓄積が観察され、当該プロセスの律速物質を特定できた。 〔課題2〕課題1のメタン発酵リアクターから取得した汚泥を用いて、プロセスの律速段階である酢酸とプロピオン酸の分解を担う微生物群を高感度SIPで大規模に同定した。特に酢酸の分解(嫌気酢酸酸化)を担う微生物はそれによるエネルギー獲得効率が悪いため、環境中からの直接同定は極めて難しいものであるが、高感度SIP培養時に酢酸の添加方法を工夫すること(低濃度で複数回の添加)により解決することができた。
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今後の研究の推進方策 |
〔課題1〕460日以上のバイオリアクターの運転期間を通して取得した、大規模な化学パラメータデータおよび生物群集構造データセットの取得を継続実施する。特に化学パラメータのうち多元的データ解析は、有機物・無機物質等の網羅解析(LC-TOF-MS、ICP-MS/MS等)のデータも加える予定である。そのため、次年度はこれらの分析条件の最適化およびデータ取得を行い、幅広いデータセットによる多元的データ解析にトライしてゆく。 〔課題2〕高感度SIPにより同定した酢酸とプロピオン酸の分解を担う微生物群データを、課題1で得られた生物群集構造データセットの中から抽出し、バイオリアクター運転期間における当該微生物群の動態情報を取得する。特に、これらの有機酸を嫌気的に酸化する際の協力者であるメタン生成菌の動態も一緒に調べて、メタン生成に関わる生物間相互作用がどのようにかく乱に応答していくのかを明らかにする。 課題1と2で得られたこれらの大規模データを統合し、メタン発酵廃水処理プロセスの中核微生物制御を可能にする予測モデルを構築してゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は無事に約460日以上のバイオリアクター連続運転を実施することができた(昨年度からの継続)。しかし当初予定していた、バイオリアクター装置の運転メンテナンス作業を実施する補助員が1ヶ月しか確保できず、代表者自身で運転メンテナンス作業およびトラブル対応等を実施したため、予定よりも予算の使用額が少なくなった。 次年度には、バイオリアクターの運転期間で取得したサンプルの網羅的な有機物・無機物分析等を実施する補助員を通年で雇用し、加速的に研究を進めることを計画している。
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