本研究は代表者が近年開発した、微生物の機能同定法「高感度SIP」に基づいた動態解析を、大規模データ解析と融合することで、廃水処理プロセスの高精度な処理性能予測・微生物動態制御という長年の課題に対する科学的基盤の構築を目指すものである。本研究最大の目的・目標は、大規模データで構築される「相関解析に基づくネットワーク解析」に加え、「高感度SIP」で、廃水処理プロセスの鍵微生物の同定・その動態解析を駆使した「機能ベースのネットワーク解析」を融合させることで、廃水処理プロセスの中核微生物制御を可能にする予測モデルを構築することである。 〔課題1〕10Lの嫌気バイオリアクター装置で人為的なかく乱運転も含めて460日以上の連続運転を昨年度までに実施し、負荷変動型メタン発酵バイオリアクターの大規模データ取得を達成していた。本年度は、データセットを用いて、高感度SIP(課題2)で特定した酢酸とプロピオン酸を分解する微生物動態解析とその動態と処理性能に関する各種化学パラメータの相関解析などを進めた。 〔課題2〕メタン発酵プロセスの安定化・高効率化を担う有機酸分解微生物群の同定については、昨年度までに実施した高感度SIP実験の解析を進めた。その結果、酢酸またはプロピオン酸分解を担う微生物として既知有機酸酸化細菌3種、新規な分解細菌9種を同定した。同定した新規な分解細菌の系統学的な位置を解析したところ、ほとんどが未培養系統群に属したが、酢酸とプロピオン酸の分解細菌はそれぞれまとまったクラスターを形成した。また課題1の解析結果から、有機酸分解細菌の代謝特性の推定も試みた。
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