研究課題/領域番号 |
20K20050
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研究機関 | 帝塚山学院大学 |
研究代表者 |
古田 富建 帝塚山学院大学, リベラルアーツ学部, 教授 (40555299)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 恨言説 / 韓国文化 / 文化的ナショナリズム / コロニアリズム / 韓国近現代史 |
研究実績の概要 |
「恨(ハン)」は、韓国の伝統文化理解の上で重要な概念であり、80年代には「『恨』は韓国文化を象徴するもの」「民族固有の心性」という意識が韓国人の間で広く定着した。その後韓国内ではその認識に陰りが見られるも、日本では依然として「韓国人は恨の民族」という見方が続いている。 本研究は「『恨』は創られた言説」という構築主義的立場 を継承し、「恨言説がいかなる過程を経て形成されたのか、どのような社会的背景の中で多種多様に変容・浸透したのか」という問いの元に、今年度は2本の論文と1本の学会発表を行った。 今年度の研究成果は韓国における恨言説の形成に重要な役割を果たした植民地を経験した韓国の知識人の咸錫憲のベストセラー本『苦難の韓国民衆史』の「苦難」の意味について考察した。民族が共通して恨を持ちえた根拠は「苦難の歴史」の共有にあり、「恨は植民地主義によって作られたもの」という近年の主張は、「苦難の歴史」言説にこそ、恨を誕生せしめた「言説」であることが分かった。 もう一つの研究成果は論文「映画と恨:60年代のホラー映画」の発表である。本研究では今まで知識人の言説のみを研究対象としてきた恨言説研究を映画にまで拡げて考察した点にその独自性がある。60年代後半から恨を題名としたホラー映画がいくつか作られた。特に映画『恨』は海外輸出を意識し「韓国的なモチーフ」を用いて創られた意欲作であったが、67年の制作当時にすでに恨という感情が民族性を帯びたものとして韓国社会の中で理解されていることが映画の広告から分かった。 また日本における恨言説について特に2000年代以降に活発になる嫌韓保守の言説の中のどのような恨言説が見られるかを学会発表した。それは「儒教社会の弊害」「独善主義の心理」「火病」という3つの要素を持ったものでありそれは韓国で語られてきた言説とは異質のものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナという状況が研究課題をこなすためにプラスの面もマイナスの面もあり、全体的に見ると概ね順調に進展したと言うことが出来る。 プラスの面は、緊急事態宣言の発出などで在宅勤務時間が増えて研究時間が予想以上に確保出来たため、論文2本と研究発表1本という当初予想していた以上の研究成果を1年で出すことが出来た。また完成しかけている論文も2本程度ある。研究成果という意味においては予想以上の成果が1年で出せた。 しかし世界的なコロナ蔓延により韓国でのフィールド調査および資料収集がいっさい出来なかった点は、今後研究を進めるにおいて大きな支障となった。特に言説研究は資料収集が大変重要であるため日本に存在する資料や購入できる資料を発掘してでできる研究を前倒しにしながら研究を進めた。 コロナの状況によって渡韓が今年度も厳しいとなると大幅な研究の遅延だけでなく、研究課題自体に取り組めないことも予想されるため、状況次第では研究の組み直しも検討せざるを得ない可能性も出てきた。 また本研究はアルバイトに新聞調査の補助を依頼して進める計画を立てていた。NAVERのニュースアーカイブというサイトを用いて解放直後から2000年までの東亞日報および京郷新聞を研究対象にすると研究実施計画に記した。最近になって朝鮮日報という京郷新聞よりも知名度があり影響力のある新聞がアーカイブに追加されたため、朝鮮日報での研究環境が整った。京郷新聞ではなく朝鮮日報を研究対象に変更すべきかどうかを検討に時間を要し、新聞補助のアルバイトの依頼が遅くなり記事データー による分析を開始するのが予想以上に遅くなる。しかし新聞記事のデーター入手が計画よりも遅くなっても研究に遅延なく次年度しっかりと成果を出せると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の状況の中で渡韓して行う予定のフィールド調査のめどが全く立っていない。また現地での資料収集が出来ていないことも、研究を遅延させる大きな原因となっている。改善の見込みが現時点では予想がつかないためなんとも言えない状況である。 しかし研究が承諾された期間中にフィールド調査や資料収集以外の研究を前倒しに進めながら模索していく必要がある。 具体的な予定としては今年度中に「日本における恨言説」について学会発表した内容を論文化し、それ以外に2本程度論文を執筆したいと計画している。「韓国の恨言説」についても2本程度の論文を執筆し、可能であればそれらをまとめた書籍の出版を行いたい。 最終年度である来年度は、主に韓国におけるフィールド調査および資料収集を実施してその成果をまとめるだけでなく、アルバイトを使って現在資料を作成している新聞記事の分析・考察を行った論文を執筆したい。 渡韓しての宗教教団のフィールド調査が厳しい場合は教説研究に切り替えて、教説をKHコーダーで分析した研究に切り替えることも検討しながら計画通りに研究を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で現地調査や出張を伴う資料収集にかかる研究費用がほとんど消化できなかった。その分書籍や論文ダウンロードの費用を増やして、研究成果を出すように努めた。
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