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2020 年度 実施状況報告書

「市民参加の制度化」と就労概念の拡張:ドイツとEUにおける事例を中心に

研究課題

研究課題/領域番号 20K20057
研究機関東京大学

研究代表者

渡部 聡子  東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (60845585)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワード市民参加 / ボランティア / ドイツ現代政治 / 奉仕義務 / 社会的包摂
研究実績の概要

本年度は「市民参加の制度化」について、その社会的包摂の機能と課題を明らかにするため、ドイツを中心に分析した。ドイツでは超党派的な合意のもと、自発的な活動を支援するための公的な制度(以下、「ボランティア制度」)が安定的に発展してきた。近年は、年齢制限を撤廃した新制度の導入や、育児・介護中の者や障害のある者などの参加障壁を下げるための法改正がなされるなど、包摂戦略の一環として位置付けられている。
しかしその一方、高学歴の若者に偏った参加者構造は続いており、あらゆる社会層が平等に参加できていないことへの批判も強い。一部の保守派からは、一律に奉仕義務を課すことで参加格差を解消すべき、との主張も散見され、コロナ禍において、より公然と議論される傾向もみられた。そこで、徴兵制の再開、奉仕義務の導入、連邦軍における「ボランティア制度(実際は志願兵制)」、に分けて議論を整理した。
ドイツでは、徴兵制による文民統制を支持する声が根強く、兵役の代替として行われていた民間役務の社会的評価も高い。また、ボランティア制度により、自発的な活動の教育的効果が検証されており、社会的連帯(紐帯、結束)を強化する効果にも期待が寄せられている。結果、参加「できない」ことは、教育の機会損失であり、危機的状況に連帯して対処するためにも奉仕義務が必要、との議論が再燃した。ただし参加「しない」層として、しばしば移民・難民の背景を持つ者が挙げられ、彼らに奉仕義務を課すことで価値を共有させ、統合を促すべき、との言説も見られ、ポピュリズム的な要素も強い。
全体として見れば、既存政党の合意は継続しており、制度そのものを変化させるには至っていない。また、法的ハードルに加え、人的、財政的コストと公平性の観点から考えて、導入は現実的でない。それでもなお、こうした議論の動向は、「市民参加の制度化」の危うさを課題として示すものである。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究は、「市民参加の制度化」が、雇用から仕事へと就労概念を拡張し、誰もが生活の保障と自尊心を獲得できるような社会的包摂の仕組みとして機能し得るのか、またその要件は何か、を問いに据えている。2020年度は、本研究課題の中心的な対象地域であるドイツおよびEU加盟国における現地調査を予定していた。しかしコロナ禍に伴う渡航制限と、現地でのロックダウン等による混乱のため、調査対象者との日程調整はもとより、渡航自体がきわめて不確実となった。そのため、先行研究の整理を改めて行なったうえで、政党の内部資料、連邦および州の議事録や報告書、メディア報道を収集し、精査することに集中した。
研究の成果は、国際ワークショップでの講演、国内での口頭発表および招待講演をそれぞれオンラインで実施するとともに、書評および投稿論文を通じて発表した。したがって全体としては、計画はおおむね順調に進展していると言える。

今後の研究の推進方策

本研究は、A.「市民参加の制度化」の網羅的な把握、B.就労概念の拡張という基準を用いた政策的実践の整理、C.社会保障制度と雇用、市民参加をめぐる議論に「市民参加の制度化」を位置付けること、を目的としている。2020年度はこのうちA.およびB.に関して、社会的包摂の機能という観点からドイツを中心に検討したが、2021年度はさらに、EUとの相互作用も分析対象に含める。調査方法について今後は、感染状況の安定化をみて適宜旅費を使用することも想定しているが、渡航できない可能性も高いと考えている。そのため、オンラインでの専門家との面談や研究発表を継続するとともに、現地の方からの協力を得て追加資料を収集し、適宜オンライン・インタビューを実施することにより、研究を推進する予定である。

次年度使用額が生じた理由

当初の計画では、ドイツおよびEU加盟国における現地調査を検討していたが、コロナ禍に伴う渡航制限と、現地でのロックダウン等による混乱のため、調査対象者との日程調整はもとより、渡航自体がきわめて不確実となった。そのため、旅費および調査対象者への謝礼として計上していた予算に次年度使用額が生じた。
今後は、感染状況の安定化をみて適宜旅費を使用することも想定しているが、渡航できない可能性も高いと考えており、オンラインでの情報収集にも注力する。その際、先行研究や資料の収集と、現地の専門家との面談や研究発表、オンライン・インタビューを組み合わせて実施する。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)

  • [雑誌論文] コロナ禍の学校外環境教育―ドイツの奉仕義務をめぐる議論を中心に―2021

    • 著者名/発表者名
      渡部 聡子
    • 雑誌名

      日本環境教育学会関東支部年報

      巻: 15 ページ: 15-20

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 池田浩士『ボランティアとファシズム―自発性と社会貢献の近現代史』(2019 人文書院)2021

    • 著者名/発表者名
      渡部 聡子
    • 雑誌名

      明治学院大学国際平和研究所紀要 PRIME(プライム)

      巻: 44 ページ: 150-154

    • オープンアクセス
  • [学会発表] コロナ禍の学校外環境教育―ドイツの奉仕義務をめぐる議論を中心に―2021

    • 著者名/発表者名
      渡部 聡子
    • 学会等名
      日本環境教育学会第15回関東支部大会
  • [学会発表] ドイツの『物言うボランティア』― ボランティア支援政策における政治教育の実践2020

    • 著者名/発表者名
      渡部 聡子
    • 学会等名
      静岡大学道徳教育研究会2020年度講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] A Study of Voluntary Service in Creating Social Inclusion2020

    • 著者名/発表者名
      Watanabe, Satoko
    • 学会等名
      DAAD-PAJAKO Online Workshop "PaJaKo goes online: International Workshop in Times of Covid 19"
    • 国際学会 / 招待講演

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公開日: 2021-12-27  

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