研究課題
本研究では、反強磁性秩序のダイナミクスの実空間イメージングを、最終目標に設定している。本年度は、最終年度であったが、目標の前段階であるマイクロ波に誘起された強磁性秩序のダイナミクスに対する時間分解X線測定の測定精度の向上や測定内容の拡大を行なった。放射光施設では、パルスX線が利用でき、試料に入力する外場をこれに同期することで、時分割測定が可能になる。これを用いて、Pt/FeNi薄膜中の強磁性共鳴によって誘起される磁化ダイナミクスの測定に成功した。また、時分割XMCDのエネルギースペクトルを取得し、ベイズ推定により解析することで、スピンと軌道モーメントの分離に成功した。その結果、スピンモーメントは歳差運動を生じているのに対して、軌道モーメントはほとんど歳差運動していないことがわかった。一方で、通常のstaticなXMCD測定では、軌道モーメントはスピンと比較して有意に生じていることが明らかになった。このことは、強磁性共鳴では、スピンモーメントに比べて軌道モーメントは歳差運動を生じにくいことを示唆している。このように、強磁性共鳴中でのスピンと軌道モーメントを分離して抽出する実験は、世界でも初めてのものであり、スピントロニクス研究においても非常に重要である。また、反強磁性秩序では、軌道モーメントが物性の主役になることも多く、本成果は反強磁性秩序のダイナミクスに応用するためにも、重要である。更に現在、装置の改変等を行なっており、今後は当初の目標である反強磁性秩序のダイナミクスの観測に挑戦していく予定である。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Journal of Synchrotron Radiation
巻: 29 ページ: 1414~1419
10.1107/S1600577522008724