研究課題/領域番号 |
20K20121
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
青柳 西蔵 東洋大学, 情報連携学部, 助教 (20646228)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 場所 / 仮想現実 / 遠隔授業 / 教室 / 存在感 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、場所の主観的な意味や社会的活動という人的側面を再現することで、場所を、物理的には異なる他の空間へ移植できるXRシステム、場所アバタを開発し、ある場所が元と同じ場所であると感じられる場所同一性の操作可能性を示すことである。 研究実施計画では、本年度は、場所アバタ開発に先立ち、住居の引っ越しを通して人々が感じている場所同一性の実現過程と要因を明らかにするインタビュー調査を実施する予定であった。しかし、コロナ禍により実施が困難となり途中で中断した。 その後計画を変更し、コロナ禍の影響で実施された大学での遠隔授業を対象とした研究を実施した。まず、学生にとっての大学の教室という場所の主観的意味と社会的活動を明らかにするために、ある授業の受講者242名に、教室での印象が強い活動と、その活動中に関わりがある人についての選択式のアンケートを実施した。その結果、印象の強い活動として最も多かったのは約2/3が選んだ、授業であった。また授業を選んだ人は、関わりがある人として約半数が教授、約1/4が友人と答えた。授業においても友人との関わりが比較的大きいことは意外かつ現実的な知見である。 また同時に、本来その授業が行われるはずであった教室を仮想環境として再現し、それを一般的な2次元動画、周囲を見回せる360度動画、VRヘッドセットという3方式で閲覧できる場所アバタを開発した。そして、遠隔授業で実際に使用し、受講者を対象に「他の生徒と受講しているように感じる」等、場所の再現を評価するアンケートを実施した。その結果、VRヘッドセット方式が最も評価が高いが、特別な機器の必要無い360度動画方式もそれに近い高い評価であった。 上記の成果を、国内の学術会議、ヒューマンインタフェースサイバーコロキウム、及びHAIシンポジウム2021において発表し、後者では学生奨励賞を受賞する高い評価を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の応募時には、本年度は場所同一性を実現する仮想環境である場所アバタを実際に開発する予定であった。しかし、応募から採択までの間に文献調査をすすめた結果、実世界における引っ越しの事例(Gustafson 2001, Mesh and Manor 1998)が場所同一性を部分的にでも実現している可能性に思い至った。そのため、一部研究を変更し、本年度は場所同一性の要因と実現過程の知見を得ることを目的に、住居や職場の引っ越しを通じて場所同一性を維持した経験がある人を募集し、インタビュー調査を実施することにした。ところが、その後、新型コロナウイルス感染症の流行が深刻化したため、インタビュー調査を途中で中断せざるを得なくなった。そこで、年度の途中に当初の計画に再度戻し、大学での遠隔授業を実施することになった機会を活かして、学校の教室を対象とした場所アバタを開発し、それを実際の遠隔授業において使用することにした。 上記のようにコロナ禍の影響で研究内容が二転したことにより計画に若干の遅れが生じ、また本年度開発した場所アバタのシステムも、実際の授業に間に合わせるための時間的制約があったために完成度が高いとは言い難い。しかし、開発した場所アバタを、研究室実験ではなく実際の遠隔授業実践において評価できたことで、現実の生活に根ざした場所同一性についての知見が得られたことは有益な成果であった。これより、本年度はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の計画通り、仮想環境による場所アバタの開発・改善と、拡張現実環境による場所アバタの開発をすすめる。まず、場所同一性の知覚的要因を抽出する仮想環境実験を令和3年度に実施する。空間の中で利用者にとって特に意味を持つ物体、社会的活動で特に利用される物体が、場所同一性要因となるという本研究の仮説を検証する。さらに、令和2年度に中断したインタビューによって作成する予定であった、場所同一感の評価指標の質問紙尺度を、場所アバタを使用した実験によって作成を試みる。 令和4年度には、令和2年度の教室の再現の研究成果と、令和3年度の成果を反映して、拡張現実環境を用いて実世界のある場所を他の場所の再現にする場所アバタを開発する。 なお、場所アバタの評価や仮説検証のための実験については、コロナ禍の収束が見えない現状に適した方法に改める。すなわち、当初の計画にあった研究室に実験協力者を招いての実験ではなく、実験システムをWebアプリとして実装して遠隔で参加できる評価実験を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は場所同一性の要因と実現過程の知見を得ることを目的に、住居や職場の引っ越しを通じて場所同一性を維持した経験がある人を募集し、インタビュー調査を実施することにした。ところが、その後、新型コロナウイルス感染症の流行が深刻化したため、インタビュー調査を途中で中断した。そのため、調査の謝金の分、次年度使用額が生じた。 中断した調査は、コロナ禍の中でも実施可能なWebベースの遠隔インタビューとして改めて実施する予定であり、そのための謝金は次年度使用額と翌年度の助成金を用いる予定である。
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