研究実績の概要 |
令和2年度は,①味覚鑑賞能力に関する文献調査,②料理の美的鑑賞方法の開発,③嗜好品飲料の非言語表象生成手法開発を主なトピックとして実施した.美的鑑賞の理論について,令和2年度は,味覚表現における美的用語の検討を行った.日本酒味覚表現コーパス (約12万語) のデータを分析し,動詞,形容詞,形容動詞の美的用語としての定義を試みた.定義にあたっては1) 用法ベースのアプローチ、2) 百科事典的意味論 、3) 意味づけ理論を用いて、日本酒の味の用語を定義するアプローチを提案した。本研究では,高頻度の動詞,形容詞,形容動詞を抽出し,それらの意味を,用語間の共起スコアに基づいてボトムアップかつアブダクティブに定義した.結果として,日本酒の味覚表現における一部の用語が,通常の辞書では収録されてないような,味,風味,質感,時間の流れなどに関連した意味を持ち得ること,それらの美的用語としての意味を共起語から定義することの可能性が示唆された。研究成果は書籍によって発表されている. また食環境の調査としての陶磁器に関する研究も進展しており,文献調査,フィールド調査,実作試験なども順調に推移している. 次年度以降では,味覚の表象が音や形,色などの非言語表象と言語表象の複層的な表象構造から成立することをモデル化する.非言語表象を含む複数の表象層が類推,メタファを基軸として相互に関連しあっていることを主張し,味覚の複層的な表象の生成を説明する現象学的モデルとして,論文により発表を行っていく.
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