研究者の海外移籍により,当初予定を繰り上げて研究中断を行った. 研究の目的である味覚に関する美学理論の研究推進については,味覚・嗅覚の鑑賞について,観賞文に見られる美的用語の定義方法を論じた. 論文「 Defining the aesthetic sake taste terms: A usage-based approach.」では,辞書的な意味ではなく百科事典的意味論に立ち,形容詞・形容動詞16語の動態的な意味をコーパス内の共起関係から(usage based approach)定義するという手法を提案した.結果の一例として,「透明な」という語が香りではなく味,とりわけ甘みを専属的に修飾することなど,辞書的な意味を超えた語の定義を導出することができた. 論文「Defining the Verbs for “Understanding and Interpretation” of Japanese Sake」は,前出の論文(福島 accepted in 2019)の展開として,動詞表現味覚に関する美的用語の定義方法を論じたものである.本論文では,百科事典的意味論に立ち,既報の形容詞・形容動詞とあわせて,動詞9語の動態的な意味をコーパス内の共起関係から(usage based approach)定義するという手法を提案した.結果の一例として,「ふくらむ」という語は,日本酒業界では一種の専門用語的に「旨味のあるさま」を表現するという共通認識があるが,本提案手法からも「旨味」との共起関係が示されており,一般の定義を離れた専門用語をも定義の範疇に収めることが可能であることが示された. これらの研究結果は味覚や嗅覚の観賞においても「美的用語」が成立していることを示したという点で美学研究に貢献したものである.一般に味覚や嗅覚の表現というと,ソムリエの表現のように「Aの香り,Bの香り...」というように名詞句で表現することが想起されるが,本研究では味覚,嗅覚の表現における動詞,形容詞,形容詞句の重要性に着目したという点に独自性を持つ.
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