高齢ドライバの交通事故増加を受け、ドライバの認知能力低下の早期発見技術が急務となっている。本研究は、自動車に搭載されているセンサを駆使し、収集したドライバの運転行動データから認知能力を評価することを目指す。 認知能力の評価指標は提案されているものの、シミュレータ利用が前提となっており、現実の運転行動データに対して評価を行う例がない。その理由に場面の検出問題がある。運転中に直面する場面には高度な認知を要求する場面とそうでない場面がある。それ故、正確に認知能力を評価するためには、適切な場面を検出する技術が必要となる。研究期間では認知能力評価可能な場面の検出手法を提案した。これにより検出場面に対して既存の評価指標が適用できるようになり、実運転行動データに基づく認知機能評価が可能になることが期待できる。 本研究では、運転場面が道路環境、出現物体、操作で構成されると仮定し、それら3要素を評価した上で総合的な検出結果が得られるよう、CNN-LSTMモデル構造をベースにし、アンサンブル構造及びAttention機構を組み込んだ検出モデル構造を提案した。実験の結果、既存研究で用いられるモデル構造に比べ検出精度が向上することを確認した。 ただし、提案手法は教師あり学習に基づく手法であり、予め正解データの収集が必要となる。しかし、膨大な運転行動データの中から正解データのみを集めることは困難である。そこで、ドメイン適応技術を用いて、シミュレータで作られたデータを用いた場面検出手法を提案した。既存のドメイン適応技術は、両ドメインに対してデータのクラス分けがされていることを前提としている。それ故、運転行動データに対するクラスタリング手法を提案し、かつ、得られるクラスタを用いたドメイン適応手法を提案した。実験では、現実のデータを用いた検出器の精度に対して80%ほどの検出精度を確認した。
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