研究課題/領域番号 |
17H06233
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 認定NPO法人量子化学研究協会 |
研究代表者 |
中辻 博 認定NPO法人量子化学研究協会, 研究所, 理事長 (90026211)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 相対論的量子化学 / ディラック方程式 / シュレーディンガー方程式 / Chemical Formula Theory / 重い元素の化学 / 元素戦略 |
研究実績の概要 |
化学の世界でも周期表の下部を占める重い原子とそれを含む分子の化学には、相対論的理論が顕著に重要になる。本研究の目的は、周期表下部の2/3以上のエレメントを含む化合物の化学を支配している相対論的ディラック方程式の正確な解法を導き、これを化学理論として定式化し、既にほぼ完成に向かいつつあるシュレーディンガー方程式に基づく正確な化学理論と合体して、周期律表の全エレメントを含む化学について、正確な予言的量子化学を確立する事である。従来の量子化学の相対論は、普通の分子軌道法に、相対論”効果”を足継ぎしたような理論が主であり、相対性量子力学の基礎方程式であるディラック方程式から出発していない。しかしながら、周期律表の下半分のエレメントについては、相対論に基づくエネルギーは非相対論のそれよりはるかに大きく、これでは不満足なことは明白である。重いエレメントの世界では、相対論は、”効果”の様な「従」ではなく、むしろ「主」である。ディラック方程式に直接軸足を置く量子化学の建設が絶対に必要であり、それを目指した研究を行う。 平成30年度は、原子・分子の新しい電子構造理論として導入したChemical Formula理論を、シュレーディンガー方程式を解くための出発関数として用いる考え方を、相対論的ディラック方程式の解法の際にも導入することを検討した。また、相対論的ディラック方程式の大きな問題点である、電子数の増加に伴って解が急速に困難になることを克服するための方策についても研究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原子が重くなるほど核の電荷が増え、核の周りをまわる電子の速度も増え、光の速度とcomparableになり、相対論的効果が無視できなくなる。この定性的な記述から推論できる通り、相対論効果が最も大きな電子は、重い原子の最内殻の1s軌道を占める2つの電子にあると考えることができる。Diracの相対論的方程式はシュレーディンガー方程式にくらべて正確に解く事が電子数の増加と共に極めて難しくなる構造をしており、そのため現在に至っても、私たちが2005年に発表した2電子系のDiracの方程式の正確な解法を、より多電子系に広げた例はない。しかしながら、大きな原子の最内殻の1s電子は、他の2s以上の電子からかなり隔離された独立なshellの形で存在し、かつまた、相対論効果はこの2つの電子において最も大きいと考えることができる。従って、この 1s電子対を、私たちが2005年に発表した2電子系のDiracの方程式の正確な解法に従って解き、その結果の電子状態の上に、他のN-2電子を追加して、すでに私たちがほぼ完成しているシュレーディンガー方程式の解法・自由完員関数理論によって解く事ができれば、問題はかなり易しくなることが予想される。この考え方とChemical Formula理論の考え方とを繋げ、内殻電子のtransferabilityを用いると、シュレーディンガー方程式の解法とDiracの方程式の解法が互いに大きく接近し、お互いに得られるものがはっきり見えてきた。この視点に立って研究を進めることにより、相対論的効果の取り扱いと、Diracの方程式の解法を、幾分前進させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
上の立場に立つことによって、Diracの方程式の解法と相対論的効果の取り扱いとが、それぞれ異なる視座で取り扱えるようになり、見通しも立てやすいので、この方法を今後の研究の中でも取り入れていく。パウリの原理、電子構造論的考察などの考察・検証も加えていきたい。
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