研究実績の概要 |
化学を支配している原理は量子力学であり、その基本原理はシュレーディンガー方程式と重い原子が存在するときに重要になる相対論である。本年もこれらの理論に基づいて真に予言的な量子化学を実現するための研究を進めた。不可能と言われたこの企てを可能にした基礎は、本申請者が2004年に発表したFree Complement Theory (自由完員関数理論)であり、それ以来のいろいろの研究と試練からもその正確さ有用性は確認されている。本研究の2022年1月の論文(J.Chem.Phys.156,014113)で、自由完員関数理論における中心的な関数であるscaling functionの正しい関数の形とその実例が明らかにされた。これを採用し、テストすることによって波動関数が数倍も正確になることが分かった。次に、現在論文をまとめ中であるが、シュレーディンガー・レベルの波動関数の決定法である局所シュレーディンガー方程式法において、計算すべき波動関数の確率密度に近いサンプリング点を、直接変換法で正確に求める方法を開拓した。この方法は従来のMetropolis法に見られる繰り返し計算もなく、正確かつ高速で、大きな実用性を持っている。この2つの方法をつかってLi2の基底・励起状態9個のポテンシャル・カーブを自由完員関数理論で計算し、すでに分光学的実験によって得られているRKRポテンシャルと比較した。その結果自由完員関数理論は実験で得られている7個のRKRポテンシャルを0.064 kcal/molの絶対精度で完全に再現しているばかりか、実験では報告の無い2つの3重項状態のカーブ、さらに、実験では部分的にしか決められていないカーブの空白部も、この精度で予言することができた。旧来の理論では、15 hartree程もある分子の全エネルギーの完全な一致はまず不可能であるが、自由完員関数理論はそれを実現した。
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