研究課題/領域番号 |
20K20678
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
栗原 隆 新潟大学, 人文社会科学系, フェロー (30170088)
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研究分担者 |
古田 徹也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (00710394)
白井 述 新潟大学, 人文社会科学系, 研究教授 (50554367)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 解釈学 / 正義論 / 嘘 |
研究実績の概要 |
当事者や状況によって判断が異なる「正義」が、実現されるためには相互履行と普遍妥当性が必要になるのに対して、「善かれ」とする判断は一方的であっても成り立つ。こうした判断が妥当であるためには、他方の状況や意図、実現されるべき目的を「解釈」しなければならない。2020年度の栗原は、「一般解釈学」の祖と位置づけられる、アストやシュライエルマッハーに先立つ、後期啓蒙主義の美学における解釈学の試みを掘り起こすことに傾注した。そこからは、従来からの聖書解釈学や法典解釈学を超えるとともに、近世初頭以来の、実体の在り処であった「魂の根底」論を、「心の根底」と読み替えた上で、心理学的に「心の解釈」論が展開されたことを明らかにした。 古田は、「嘘」や「振り」という概念の内実についての原理論的研究を遂行した。ルートウィヒ・ウィトゲンシュタインがPhilosophical Investigations, Part.IIおよびLast Writings on the Philosophy of Psychology, Vol.I, II において展開している「振り」論、および、ジャック・デリダがHistoire du Mensongeにおいて展開している「嘘」概念の変遷の分析を検討することなどを通して、両概念の文化規定的側面を跡づけた。 白井は、他者とのコミュニケーションにおける悪意のない(あるいは善意の)「嘘」の生起過程について、オンラインの心理学実験事態を題材に実証的な検討を試みるべく、実験環境の構築作業を実施した。その上で、当該実験のベンチマークとなるデータ(被験者が実験者の監視下にある場合にどのように振る舞うか)の取得を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍のため、顔を合わせて共同研究を展開することは難しかったものの、メールで研究状況を交換し合う中で、共通認識の醸成が図られたことが大きい。研究過程にありながら、論文の生産性に関しては、極めて高い成果を上げることができた。 何よりも、栗原が、正義とする判断と善をなす判断との相違を、幾つかの具体的な事例に即して明確にした、草稿「正しいことは善いことか?」によって、科研費を受諾したテーマのアウトラインを描出するとともに、一般解釈学の成立に先立つ後期啓蒙主義における解釈学の試みの水脈を探った、草稿「心の根底と精神の帰郷」によって、「解釈」の存立機制を明らかにすることができたので、上記の判断を下した。
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今後の研究の推進方策 |
栗原の2020年度の研究は、正義とする判断と善をなす判断との相違を、幾つかの具体的な事例に即して明確にした、草稿「正しいことは善いことか?」や、一般解釈学の成立に先立つ後期啓蒙主義における解釈学の試みの水脈を探った、草稿「心の根底と精神の帰郷」として著されていて、2021年度の科研費での活字化を目指す。2021年度は、「解釈学的循環」をモデルとして、善かれとする判断を成り立たせる「循環」構造を明らかにすることを通して、循環ではなく双務的、対称的、共時的でなければ成り立たない「正義」とする判断との構造の違いを際立たせることに向かう。 古田は、2020年度において遂行した「振り」および「嘘」概念の分析を基礎に、心理学実験から引き出される知見も踏まえながら、「善」および「正」の内実および両概念の関係性をめぐる概念的整理を行う。 白井は、2020年度に開始した実験条件(被験者が実験者の監視下でオンライン実験に参加する場合)下でのデータの取得を継続するとともに、それと並行して、新規な実験条件(被験者が実験者の監視を伴わずにオンライン実験に参加する場合)下でのデータの取得も開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験哲学の試みとして、人形浄瑠璃「猿八座」によって、市民公開の公演を実施することによって、「正義」と「善」との相克について、一般市民がどのような反応を示すかという調査を実施する予定であったが、コロナ禍にあって、実施できなかったことや、出張が出来なかったことから、次年度使用額が生じた。本年度には、オンラインでの、心理学の実験環境の整備や、研究成果を印刷・刊行する経費として、使用する計画である。
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