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2021 年度 実施状況報告書

「嘘」の実験心理学的分析を援用して倫理原則を「正義」から「善」へと組み替える試み

研究課題

研究課題/領域番号 20K20678
研究機関新潟大学

研究代表者

栗原 隆  新潟大学, 人文社会科学系, フェロー (30170088)

研究分担者 古田 徹也  東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (00710394)
白井 述  新潟大学, 人文社会科学系, 研究教授 (50554367)
研究期間 (年度) 2020-07-30 – 2023-03-31
キーワード正義 / 善 / 慈善 / 不完全義務の相互性 / 正しい解釈 / 倫理学の革新 / 正しさの虚構性 / 意志
研究実績の概要

研究代表者の栗原は、知の成立機序にあって解釈学的循環が必然的ならざるを得ないことを明らかにするべく、解釈学の成り立ちについて研究した。もとより解釈学は、法典解釈学などでは、「正義」について、事実と条文や法令とを、相互的に照らし合わせて照合するところに確認されるものであった。これに対して、正しき知の成立を予め見越してそこから現状を照らし返す解釈学的循環の機序の構造を明らかにしようとしたものである。
栗原隆「少年ヘーゲルと解釈学のモチーフ」(日本シェリング協会第30回大会、オンライン、2021年7月3日)。この論考は査読を通り、『シェリング年報』30号(日本シェリン協会、印刷中)に掲載される。栗原隆「青年シェリングと解釈学のモチーフ」(東北哲学会第71回大会、オンライン、2021年10月24日)。この論考は査読を通り、『東北哲学会年報』第38号(東北哲学会、2022年6月、1~14頁)として発表される。栗原隆「シェリングとチュービンゲン神学校での解釈学」(新潟大学大学院現代社会文化研究科『比較宗教思想研究』第22輯、2022年3月、1~27頁)。
分担者の古田徹也は、行為を発動する意志をめぐって考察を深めた。その業績は下記のとおりである。古田徹也【学会発表】「前期ウィトゲンシュタインにおける『意志』とは何か」(日本哲学会第80回大会学協会シンポジウム、2021年)。古田徹也【学会発表】「偶然とアイロニー――英米圏の現代哲学の一断面をめぐって」(比較思想学会第48回大会シンポジウム、2021年)。古田徹也【論考】「前期ウィトゲンシュタインにおける『意志』とは何か」(『現代思想』2022年1月臨時増刊号、105-116頁)。
分担者の白井述は、乳幼児の知覚の発達に関する実験を、リモートで実施することの有効性とその意義そして手法について研究を進めた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初の申請書では、善かれと思って嘘をつく場合の善し悪しについて、演劇的状況を呈示して、それを観た人たちからアンケートを取ることを通して、一般的な傾向を探るという、実験哲学的な手法をも考えていたが、コロナ禍のため、大勢の方々を集めることが出来ないため、事例分析のやり方を、理論的な分析へと変更して、本研究を継続する。
従来の倫理観では、双務性や相互性の観点から、「正しいこと」すなわち「正義」や「完全義務」が捉えられていた。互酬性によって「正義」は裏付けられる。これに対して、医療現場での「応召義務」などは、医療者の片務的な責務でありながらも、一方的な「慈善」だとは捉えられていない。ここに、「善」の成り立ちを捉えることによって、「善」と「正義」の存立機制を、対比的に分析することを通して、倫理原則としての「善」を概念把握することについては、「正しいことは善いことか」という論考にまとめて、教材として授業時に解説するに及んでいる。
さらには昨今、喧伝されることの多い、「情報操作」や「フェイクニュース」について、「正しい」とする主張を検証する機序の成り立ちを振り返ると、「正しい」のか「偽」なのかを判別するためには、与えられた「情報」に対して、その真偽を「解釈」する営みの重要性が際立たされることになっている。栗原は、昨年度、後期啓蒙主義に発した一般解釈学の理路の掘り起こしに携わり、ドイツ観念論哲学を成り立たせるに到った、解釈の機序を解明した。これを、「情報」の検証へ応用することを試みることを通して、「正しさ」の虚構性が解析されることになる。
加えて、研究代表者や分担者による、学会発表や論文の発表数などの生産性は極めて高く、科研費の交付を受けた社会的な責任を果たしていると判断できる。よってもって、「おおむね順調に進展している」と判断した。

今後の研究の推進方策

当初の計画では、善かれと思って嘘をつく場合の善し悪しについて、そうした状況を呈示する演劇などを題材に、市民にアンケート等を通して調査する、実験哲学の段取りで研究を進める予定であった。とはいえ、コロナ禍にあって、多くの被験者を集めることの実現が難しいため、別の理路での研究を模索する。
従来の倫理観では、双務性や相互性の観点から、「正しいこと」すなわち「正義」や「完全義務」が捉えられていた。互酬性によって「正義」は裏付けられる。これに対して、医療現場での「応召義務」などは、医療者の片務的な責務でありながらも、一方的な「慈善」だとは捉えられていない。ここに、「善」の成り立ちを捉えることによって、「善」と「正義」の存立機制を対比的に分析することを通して、倫理原則としての「善」の概念把握を進めてゆきたい。
さらには昨今、喧伝されることの多い、「情報操作」や「フェイクニュース」について、「正しい」とする主張を検証する機序の成り立ちを振り返ると、「正しい」のか「偽」なのかを判別するためには、与えられた「情報」に対して、その真偽を「解釈」する営みの重要性が際立たされることになっている。栗原は、昨年度、後期啓蒙主義に発した一般解釈学の理路の掘り起こしに携わり、ドイツ観念論哲学を成り立たせるに到った、解釈の機序を解明した。これを、「情報」の検証へ応用することを試みる中で、「正しさ」の虚構性を解析することを目指す。

次年度使用額が生じた理由

コロナ禍に伴って、学会出張が出来なかったことや、アンケート調査のための実験哲学を試みることが出来なかったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額の使用計画は、研究文献の購入、消耗品の購入、さらには、2022年度が最終年度であることから、研究成果論文集の作成などが予定されている。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (7件)

  • [雑誌論文] シェリングとチュービンゲン神学校での解釈学2022

    • 著者名/発表者名
      栗原隆
    • 雑誌名

      比較宗教思想研究

      巻: 22 ページ: 1-27

  • [雑誌論文] 前期ウィトゲンシュタインにおける『意志』とは何か2022

    • 著者名/発表者名
      古田徹也
    • 雑誌名

      現代思想

      巻: 2022年1月号 ページ: 105-116

  • [学会発表] 少年ヘーゲルと解釈学のモチーフ2021

    • 著者名/発表者名
      栗原隆
    • 学会等名
      日本シェリング協会第30回大会
  • [学会発表] 青年シェリングと解釈学のモチーフ2021

    • 著者名/発表者名
      栗原隆
    • 学会等名
      東北哲学会第71回大会
  • [学会発表] 前期ウィトゲンシュタインにおける『意志』とは何か2021

    • 著者名/発表者名
      古田徹也
    • 学会等名
      日本哲学会第80回大会学協会シンポジウム
  • [学会発表] 偶然とアイロニー――英米圏の現代哲学の一断面をめぐって2021

    • 著者名/発表者名
      古田徹也
    • 学会等名
      比較思想学会第48回大会シンポジウム
  • [学会発表] 幼児・児童を対象としたリモート視覚発達実験の有効性 ―トライポフォビアの発達実験2021

    • 著者名/発表者名
      白井述(+笠原舞・鈴木千春・佐々木恭志郎・山田祐樹・伊村知子)
    • 学会等名
      日本視覚学会2021年度夏季大会
  • [学会発表] 反復的な聴覚刺激が時間間隔知覚に及ぼす影響の再検討2021

    • 著者名/発表者名
      白井述(+益田佳卓)
    • 学会等名
      日本心理学会第85回大会
  • [学会発表] オンデマンド遠隔方式による乳児の視知覚機能評価手法の開発2021

    • 著者名/発表者名
      白井述(+河合瑞季・伊村知子・大塚由美子)
    • 学会等名
      日本心理学会第85回大会

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公開日: 2022-12-28  

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