研究課題/領域番号 |
20K20747
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小浜 祥子 北海道大学, 大学院公共政策学連携研究部, 准教授 (90595670)
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研究分担者 |
西 平等 関西大学, 法学部, 教授 (60323656)
前田 亮介 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (00735748)
三船 恒裕 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 准教授 (00708050)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 国際政治 / 人質 / 信頼 / 集団間関係 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、近世から近代にかけて、合意の保証メカニズムとしての人質制度がなぜ衰退したのかを、歴史的な実態の解明および社会心理学実験の手法を用いて解明することを目的とする。当初の計画において、研究初年度は西欧と日本における人質制度衰退の過程について探索的な検討を行い、仮説構築へとつなげる予定としていた。 こうした計画に沿って本年度は3回のオンライン・ミーティングを開催し議論を重ねた。具体的には、まず極めて多様な慣行を包含する概念である「人質」について、本研究課題についてどのように定義するかについて、古今東西の人質の慣行を参照しつつ、近代における国際テロリスト集団による人質略取や大戦期における占領地での人質問題なども射程に収めつつ分担者の西を中心に検討し、プロジェクトメンバー内で一定の共通理解を構築した。 次に、西欧における人質問題について、研究代表者である小濵を中心にKosto, A. J., 2012, Hostages in the Middle Ages (Oxford, UK: Oxford UP)などの先行研究を検討した上で、古代から近世までの人質の具体的についての事例収集を行った。さらに、東洋における人質の慣行について、分担者の前田を中心に、古代以降の漢民族と周辺民族との間の人質のやり取りから中世日本における人質制度の未成熟、そして16世紀半ば以降の人質の爆発的増加といった点について先行研究および事例を検討した。こうした多種多様な事例を参照しつつ、人質が当時の社会で果たしていた役割およびその成立条件について、分担者の三船を中心に集団間の信頼関係の醸成という視点から仮説の方向性を絞りこんだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画において、本年度は西欧と日本における人質制度衰退の過程について探索的な検討を行い、仮説構築の手がかりを掴むことを目標としていた。具体的には、まず西欧における人質制度の趨勢に関して16世紀以降の国際法学者の議論を中心に検討すること、そして日本近世末期の参勤交代制度の瓦解について検討する予定であった。 実際には、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、対面での打ち合わせや調査を実施できなかったために、当初の予定とは異なる道筋で研究を進めることとなったが、仮説の手がかりを掴むという当初の予定はおおむね達成することができたと考える。より具体的には、人質の慣行についての専門的業績があまり多くないことから、当初の予定よりも射程を広げ、古今東西の人質の事例を旧約聖書、日本書紀から第二次世界大戦後のニュルンベルク裁判の史料まで幅広く探索し、時代による変化や地域間の共通性といったものを、時代背景に留意しつつ検討した。人質の供出が短期的・長期的に果たした役割や、人質の供出が意味を持ちうる政治共同体の在り方などについて、議論を行うことができた。 人質の実践例が多岐にわたることから、こうした議論を具体的な仮説に落とし込む段階までには至っていないが、当初の予定通り、本研究課題二年度の前半において、社会心理学の知見を援用しつつ人質による合意保証のメカニズムについての仮説構築に取り組むための土台作りはできたのではないかと考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画においては、第二年度は、初年度に探索的に実施した事例調査をふまえ、前半には仮説の構築、後半には社会心理学実験による仮説の検証に取り組む予定であった。このうち、仮説の構築については本年度の成果を踏まえ予定通り取り組んでいく。ただし、本年度の調査の結果、人質の慣行が想像以上に古今東西に幅広く見られ、その実践のあり方が多種多様であること、また近代における国際テロリスト集団による人質略取についても古代以降の人質慣行の延長線上で捉えることができるのではないかといった新たな論点が浮上したことから、こうした点についてもさらに調査を進め仮説構築に活かしていく。こうした新たな論点が浮上したことに加え、新型コロナウイルス感染症拡大の影響から史料収集等にも制限があるため、当初の予定よりも時間をかけて仮説構築に取り組む予定である。しかし、これは必ずしも研究計画に遅れが出るということではなく、むしろ極めて新規性の高いトピックについて研究を進める中で、さまざまな重要な論点や事例が明らかになってきたという積極的な成果の表れであり、研究計画全体として見た場合には、その充実に資するものと考える。 また、年度後半には研究代表者の所属する北海道大学の社会科学実験研究センター(CERSS)の保有する充実した実験室において、仮説検証のための実験を行う予定としていたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響から実験室に被験者を集めての実験調査の実施あるいは被験者の募集そのものが極めて困難となっている。これについては、上述のように、まずは仮説構築の中でさらに検討すべき点について優先的に取り組むこととし、それと同時に時機が到来すれば仮説検証へと進めるような準備を整える、あるいは実験室実験以外の方法での仮説検証の可能性などの方策を検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、代表者の所属研究機関の研究活動指針により、感染症拡大地域への出張等にかかる自粛要請が発せられたために、当初予定していたプロジェクトメンバーの研究打合せが実施できなかった。また、同様の理由から、史料収集等の実施も困難であったことから、研究費に残額が生じてしまった。 本年度生じた残額については、次年度に状況が改善し出張が可能になった場合に、改めて研究打ち合わせや資料収集などを実施する経費として使用する。
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備考 |
前田亮介「丸山真男 自治の「エートス」に感銘 」北海道新聞2021年1月16日朝刊
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