研究課題
R3年度は、前年度に引き続き、転位構造の観察を目的とした模擬材料であるマイクロサイズのニッケル単結晶に対する引張圧縮繰り返し負荷試験を実施し、内部に形成される転位構造の詳細を明らかにした。同一の形状、寸法および結晶方位を有する複数の試験片を用意して繰り返し負荷試験を実施し、それぞれ異なる繰り返し数で試験を中止した。試験片の薄片化を行い、超高圧電子顕微鏡を用いてその内部構造を明らかにした。この実験により、繰り返し数の増加とともに疲労転位構造が形成される過程を特定することができた。繰り返し負荷を受ける試験片は、最初の数サイクルで転位の増殖を起こし、以降はその数が増え続けた。その後、特定の繰り返し数から転位は局所に集合し始め、特有の転位構造が形成されていく様子を明らかにした。その際、初期の転位増殖には自由表面の影響はほぼ見えなかったが、疲労転位構造形成に関してはその影響が大きく、自由表面近傍には形成されないことが分かった。試験部寸法の異なる試験片(試験部幅:2μmおよび5μm)を用いて試験を実施し、比較を行った結果、両試験片では全く異なる転位構造の形成過程を示した。これは小さい試験片では自由表面の影響が大きいことが原因であると考えられる。この転位構造形成の支配力学の解明のために、反応拡散理論による力学モデルを構築した。その際、疲労組織形成に関係する特有の転位の生成・消滅条件を考慮することで、独自の解析を実施した。さらに、制御された結晶粒界を有する試験片および異材界面を有する試験片を作製し、その疲労挙動についても詳細に特定した。また、強誘電材料に対して温度制御下で繰り返し負荷を与えるために、ヒーターおよび液体窒素冷却を具備し、精密な温度制御が可能な負荷試験装置を開発した。
2: おおむね順調に進展している
R3年度の研究計画は、1. 模擬材料のマイクロ単結晶試験体に対して繰り返し負荷を与え、転位の自己組織化過程を特定すること、2. より複雑な力学条件を有する結晶粒界や異材界面を有する試験体に対する疲労試験を実施すること、3. 力学解析によって転位の自己組織化構造について力学的な解釈を与えること、4. 強誘電体材料に対して高温下で繰り返し負荷試験を実施し、所望の転位構造形成の確認および強誘電性の計測を実施すること、である。1. については、本来は繰り返し負荷を行いながら試験片内部を連続的にその場観察することが望ましいが、マイクロスケールの金属材料の透過観察は極めて難しいことから、複数の同一試験片を用意して繰り返し数の異なる実験を行うことで対応した。2. については、一本の結晶粒界を有する双結晶試験片や多層材料から切り出した試験片(異材界面を有する試験片)を作製して疲労試験を行った。3. については、疲労特有の現象を考慮に入れて反応拡散理論を拡張し、その力学的影響因子を検討した。4. については、導入予定であった計測装置が半導体および樹脂材料の調達遅延のため年度末までの納入に間に合わなかったことから、補助事業期間を延長することとした。装置導入後には計測を行うのみであり、研究は順調に進展していると言える。
当初、R3年度に実施する予定であった後半部分の計画に沿って研究を実施する。①供試材を強誘電体材料(SrTiO3を想定)とし、高温下で繰り返し負荷を与える。②所望の転位構造(転位網)形成の特定およびR4年度に導入する装置を用いてその強誘電特性の評価を行う。
本研究課題にてR3年度に実施予定であったマルチフィジックス特性測定のための装置購入において、コロナ事情により当該装置の部品調達(半導体および樹脂材料)が遅延し、年度末までの納品が間に合わなかったため。翌年度当該装置を購入し、研究を実施する。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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