令和4年度の研究実績は、以下のように纏めることができる。1.前年度に引き続き、寸法の異なるマイクロサイズの模擬試験片を複数用意し、異なる繰り返し数の試験を実施した後それぞれの薄片化を行い、超高圧電子顕微鏡を用いてより詳細な転位のネットワーク構造の発達過程を明らかにした。その結果、2μmサイズの試験片と5μmサイズの試験片では初期の繰り返し数ではほぼ同等の転位の増殖・発達が起こるものの、それ以降の繰り返しによって大きく転位構造が変化していく様子を明らかにした。特に、表面からの影響領域が約1μmであること、および、表面に凹凸がある場合には、凹部の底を中心として転位のネットワークが発達しやすいことを特定した。2. 強誘電体であるチタン酸バリウム(BaTiO3)の微小試験片に対して、曲げの繰り返し負荷試験を実施した。その結果、転位構造とは関係なく、負荷の向きによって分極が切り替わり、力学的にスイッチング(ドメインスイッチング)を起こすことができることを明らかにした。3. 試験片に発現するマルチフィジックス特性の測定のために、圧電応答顕微鏡を導入し、試験片に曲げ負荷を与えることのできる治具を開発して、試験システムを構築した。常誘電体であるチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)に対して曲げ負荷試験を実施したが、所望のマルチフィジックス特性を得られなかったため、集束イオンビーム加工装置により試験片に切り欠きを導入し、応力集中場を設けることで対応した。4.反応拡散理論をベースとし、微小材料の表面の効果を取り入れた二次元力学解析手法を確立した。この手法によって、繰り返し負荷を受けた微小材料中に形成される転位構造形状の予測を行うことができ、下部組織の設計に利用できる。
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