概日時計は分子から個体の各階層を時間・空間的に統合して多様な生理現象の日内リズムを生み出す。申請者はケミカルバイオロジーの手法を応用し、概日リズムの周期を変化させる新規化合物を発見して鍵となる制御機構を明らかにしてきた。多細胞から成る概日時計システムの理解に向けた次のステップとして解明すべき重要課題が、細胞間の相互作用である。これまでに時計調節化合物longdaysinをもとにケージド誘導体を開発し、時間的な精密制御を実現した。本研究ではこのようなケージド時計調節化合物を用い、狙ったタイミングに狙った細胞で概日時計を定量的に操作する新技術を生み出す。これを概日リズムの1細胞イメージングに応用し、細胞間相互作用の時空間的な解析に挑戦する。本年度は1細胞レベルの概日リズムを測定する顕微鏡システムにおいて、ケージド化合物の活性化に必要な紫色光の照射による細胞毒性の問題を、マウス組織の培養系を用いて検討した。しかし、培養細胞を用いた実験と同様に、細胞毒性の問題を避けることができなかった。一方、時計タンパク質CRY1に作用する光スイッチ化合物を用いた条件検討では、緑色光を用いることで細胞毒性の問題を回避できたが、化合物による周期変化の度合いがケージドlongdaysinと比べて大幅に小さく、局所的な変化の検出が困難であることが判明した。そこで誘導体の探索を行い、KL101よりも高い活性を持つ化合物を見出した。この化合物をもとに光スイッチ化合物を改変することで、効果の上昇が期待される。
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