本研究では、従来の初期胚ではなく、昆虫のメス成虫へのインジェクションによってゲノム編集を可能とする、革新的なゲノム編集法の開発を目的とした。 2021年度は、市販の高活性Cas9を用いることによる昆虫ゲノム編集法のさらなる高度化を目指して、様々な条件検討を行った。その結果、従来法に匹敵する効率で(コクヌストモドキ)、または従来法では不可能であった種(チャバネゴキブリ)において、高効率にゲノム編集を行うことができるようになった。コクヌストモドキにおいては子の半数以上が、チャバネゴキブリにおいては子の20以上がゲノム編集個体となる、という効率の高さであり、ノックアウト系統の樹立も極めて容易であった。さらに、成虫への注射による遺伝子ノックインの可能性も追求し、低頻度ながら遺伝子ノックイン個体(コクヌストモドキ)の獲得に成功した。 研究期間全体を通じ、当初の目的のほぼすべてを達成することができた。成虫にインジェクションするという簡便さ、市販のCas9を用いれば良いという簡便さから、本課題で開発した新法(Direct Parental CRISPR、DIPA-CRISPR)は、今後の昆虫ゲノムの人為操作を飛躍的に容易にすると考えられる。また、ゴキブリとコウチュウという系統的に遠く離れた2種で高効率はゲノム編集ができたことから、対象の昆虫種の範囲は非常に広く、今後、ユニバーサルな手法として広く用いられるようになるものと期待される。さらに、本法の適用範囲を遺伝子ノックインにも拡大できる可能性も示すことができた。以上から、当初の計画を上回る成果を得ることができた。
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