研究課題/領域番号 |
20K21471
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
富田 泰輔 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (30292957)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 自閉症 / バルプロ酸 / セクレトーム / シナプス |
研究実績の概要 |
自閉症(ASD; Autism Spectrum Disorder)とは社会コミュニケーションの障害、行動・興味・活動の限定された反復様式によって診断される発達障害の一つである。ASDの原因は周産期・出生後早期の環境要因と遺伝要因の双方が考えられている。近年ASD患者に対する網羅的ゲノム解析により、神経細胞の情報伝達の場であるシナプス関連分子に多数の遺伝子変異が報告された。そのためシナプスの機能異常、特に興奮性・抑制性シナプス機能の均衡状態(E/Iバランス)の破綻がASD発症と強い相関を持つとする仮説が広く支持されてきている。一方、てんかん治療薬であるバルプロ酸(VPA)の妊娠中の服用は新生児のASDを含む精神疾患発症リスクを増大させることが知られている。この報告に基づき、妊娠マウスへのVPA投与が出生仔のASD様の行動異常を惹起することが明らかとされ、ASDモデルとして広く用いられている。本研究においては、このVPA投与妊娠マウスの出生仔におけるASD様の行動異常を惹起するメカニズムを解析する目的で、初代培養神経細胞を用いたセクレトーム解析によるASD病態発症関連分子の同定を行った。その結果、複数のタンパクがVPA投与により発現変動することが見いだされ、そのうち神経細胞シナプス接着分子の一つであるLingo2に着目し、研究を行った。そしてメタロプロテアーゼにより細胞外に放出された分泌型Lingo2(sLingo2)にシナプスオーガナイザーとしての機能があることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
VPA投与自閉症モデルマウスの病態関連分子としてLingo2を同定し、in vitroにおいてはシナプス形成に影響することを確認できた。すなわち、これまで機能未知であったLingo2がシナプスオーガナイザーとしての機能を持つことを見出した。またその代謝経路としてメタロプロテアーゼが関与することなどを明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
Lingo2の発現異常が自閉症様症状に関連するかどうかについて、in vitroに加えてin vivoでの検証を進める。具体的には、レンチウイルス発現系やノックダウン系を利用して脳内でのLingo2発現量を変動させ、シナプスの数や機能への影響を検討する。またヒトiPS細胞由来神経細胞を用いてLingo2の機能を解析し、自閉症患者におけるLingo2の病態関連因子としての可能性を検証する。
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