社会の高齢化に伴い患者数が増加している封入体筋炎 (sIBM) は中高年にみられる慢性進行性の難治性筋疾患である。sIBMの病態解明・治療開発は要介護者が増加しているわが国への貢献が大きい。高齢化に伴い増加しているサルコペニア、廃用性筋萎縮さらにはより若年発症のdysferlin異常症など筋ジストロフィーの筋萎縮病態への治療開発にも寄与しうると考えている。sIBM患者の骨格筋ではアミロイドbetaやTDP-43・FUSなどの異常凝集体が見られ筋における変性疾患と考えられる。我々は長年にわたりsIBM患者由来筋芽細胞を樹立・蓄積し、ヒト生検筋データと比較解析することで、異常凝集蛋白としてのアポリポ蛋白に注目した。sIBMでは加齢に伴い産生と排泄のバランスが崩れるという仮説のもと、特に凝集体形成蛋白の細胞・組織からのクリアランス系に着目する。独自に開発した ヒト骨格筋電気収縮培養系を活用しApoEの発現上昇を確認した。さらにsIBM患者骨格筋においてApoEの免疫染色での沈着が細胞外にもおよんでいることを見出した。研究協力者・神崎らが開発した長年の筋収縮刺激の持続を再現するために培養容器に電位をかけて強制的・持続的に筋収縮を起こし培養筋線維の成熟を促すことができる電気収縮培養系を用いて細胞ストレスを負荷し内在性のApoE蛋白の細胞内凝集体形成を評価する。前段階として予備実験を行い、凝集蛋白の一つであるTDP-43の細胞質沈着を見出した。本成果はSciRep誌に報告した。TDP-43はRNA結合蛋白の機能を持ち、標的遺伝子の発現変化を通じて、sIBMの表現型に寄与している可能性がある。sIBMの筋生検も行い、あらたに3例から筋芽細胞を樹立した。sIBMの筋組織へのB細胞の集簇についても症例をまとめNeuromusDisord誌に報告した。
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