研究課題/領域番号 |
20K21587
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
今村 行雄 同志社大学, 研究開発推進機構, 学術研究員 (90447954)
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研究分担者 |
貫名 信行 同志社大学, 脳科学研究科, 教授 (10134595)
奥住 文美 同志社大学, 脳科学研究科, 特別研究員 (90826075)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | パーキンソン病 |
研究実績の概要 |
パーキンソン病は運動症状を主症状とし、予後は極めて悪い。また高齢期に罹患すると寝たきりになるケースが多く、大変負担が大きい病気である。パーキンソン病患者さんの脳では高い確率でα―シヌクレインたんぱく質の凝集が見られ、脳神経細胞の脱落が観測される。このα―シヌクレインたんぱく質は近年、プリオン様に脳神経細胞を伝播することが報告されているが、その制御方法は明らかでなく、パーキンソン病に苦しむ患者さんから切望されている。本研究ではα―シヌクレインたんぱく質を安定的に可視化するため、高輝度かつ退色しない蛍光物質の量子ドットによりα―シヌクレインたんぱく質を化学修飾により直接ラベルし、マウス脳における動態変化をタイムラプス顕微鏡にて観測した。その結果、マウス線条体に注入したヒトαシヌクレインたんぱく質は脳神経細胞の末端から取り込まれたのち、およそ0.3um/secの速さで脳神経細胞を移動することがわかった。さらに細胞の自食作用を免れたα―シヌクレインたんぱく質は脳梁を介して対側に到達し、黒質を含む他の脳領域に到達することも分かった。神経活動をアンタゴニストによって抑制すると、特にグルタミン酸作動性のシナプス活動を薬剤によって低下した際に、α―シヌクレインたんぱく質の動態が顕著に抑制することがわかった。本結果に基づき、我々は臨床的に他の病態(筋萎縮性側索硬化症など)の治療薬の有効性を検討した。その結果、筋萎縮性側索硬化症の治療に用いられており、グルタミン酸シナプスを抑制するリルゾールを持続的にマウスの投与するとα―シヌクレインたんぱく質の凝集体が有意に抑制されることが見出された。以上の結果からプリオン様に伝播するα―シヌクレインたんぱく質はグルタミン酸作動性に伝播し、その神経活動を抑えると凝集伝搬を抑制できると示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画書では、初年度にイメージング手法によりヒトαシヌクレインのマウス脳内での動態を解析し、急性期におけるパーキンソン病態変化を可視化することが目標であった。今年度は研究実績の概要に述べたように、ヒトα―シヌクレインの動態変化とグルタミン酸作動性シナプスアンタゴニストによる制御を明らかにした。さらにこれらの薬剤による病態指標マーカーとなるリン酸化シヌクレインの発現量をおさえることもわかった。以上のことから本年度の研究計画の進捗状況はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はマウス脳におけるプロテオミクス解析からヒトαーシヌクレイン動態に関わる分子の同定を目指す。マウス脳の片側にヒトα―シヌクレインを注入したのちに細胞内輸送や神経伝達に関するどのような分子群が関わっているのかに着目し、研究を進める。さらに脳神経細胞内やオリゴデンドロサイトではパーキンソン病、多系統萎縮症と異なる病態が起こることが知られている。異なった細胞の種類においてどのようなシグナルの変化がおきているのかについてRNA-seqによる解析準備を行う。また、研究計画書に述べたように病態に関わる部位を特異的に回収した検体を対象にシングルセルズ解析について検討を加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度の研究計画で当初、見積の金額に対して既存の設備や共同研究による消耗品の使用の効率を上げることにより、かなりの部分が節約できた。このため、次年度使用額が生じ、今年度の研究計画、主にプロテオミクス解析に対して、当初より挑戦的な研究を進め、飛躍的な成果を目指す予定である。
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