研究実績の概要 |
本年度は、ヒト骨肉腫細胞を用いて、ミトトランスファーについて検討を行った。HMGB1は核内タンパクであるが、細胞障害に伴い酸化されて放出され、損傷組織での炎症、組織修復に関与する。悪性腫瘍においても抗がん剤治療後のがん組織にMSCを誘引し癌細胞の生存に寄与することが報告されているがその機序は明らかでない。Doxorubicin(DOX)およびCisplatin(CDDP)によって腫瘍細胞から放出される酸化型のHMGB1が、間葉系幹細胞(MSC)から骨肉腫細胞へのmitochondria移行(mitochondria transfer、MT)を誘導し耐性に寄与することを見出した。ヒト骨肉腫細胞SaOS2, U2OSとMSCを共培養し、DXR,CDDPで処理したところMTがcontrolに比べ、優位に誘導された。この時腫瘍内のmitochondria由来活性酸素は減少し、腫瘍細胞の耐性化がみられた。次にHMGB1抗体を作成した。SaOS2, U2OS骨肉腫細胞株を用いてこの抗体がHMGB1を中和するか検討した。骨肉腫細胞株をDOXで処理したところ上清のHMGB1濃度が上昇し、抗体を低下したことからDOX(1μM)によってHMGB1が放出され、抗体で中和されていると考えられた。この抗HMGB1抗体は抗がん剤処理時のMTの誘導を著しく抑制した。またこの際、MSCによるROSの減少、抗がん剤耐性が解除された。Mitochondria transferはdonor細胞のMiro1, Cx43の発現量と相関した。最後にMSCを還元型HMGB1及び酸化型HMGB1で処理したところ酸化型HMGB1でのみMT関連遺伝子の発現上昇が確認された。今回の結果から化学療法時の障害で放出される酸化型HMGB1が、MSCによるMTを誘導し抗がん剤抵抗性に寄与すると考えられた。
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