研究課題
コネキシン(CX)26をコードするGJB2遺伝子の変異は、世界で最も高頻度に出現する難聴原因遺伝子である。 遺伝性難聴の根本的治療法は存在しないが、多機能性幹細胞を用いた再生医療の応用が期待されている。研究代表者らは、内耳ギャップ結合を形成するCX26の内耳特異的欠損マウ スを開発し、ギャップ結合崩壊による発症機構を解明し、この異常ギャップ結合を遺伝子導入により修復することで聴力回復させる内耳遺伝子治療法を開発した。幹細胞から作製した内耳前駆細胞を蝸牛組織へ導入するためには蝸牛組織に適切な幹細胞ホーミングと呼ばれる細胞誘導の分子機構を理解し応用することが重要である。本研究では、この機構を高めることにより遺伝性難聴の内耳組織へ適切な細胞を効率的に補充し、聴力を回復させる技術開発を目的とする。本年度は移植用細胞として多能性幹細胞由来の内耳用細胞を開発するため、これまで確立した分化誘導法のさらなる改良を目指した。蝸牛支持細胞の特徴を有するヒトiPSC由来の機能性CX26ギャップジャンクション形成細胞(iCX26GJCs)を作製することを試みたところ、このiCX26GJCsは、細胞-細胞間の境界にギャップジャンクションプラーク様の形態を持ち、蝸牛支持細胞で発現するいくつかのマーカーの発現を確認した。さらに、典型的なGJB2変異を持つ患者のiPS細胞からiCX26GJCsを作製し、GJB2関連難聴の病態を再現することに成功した。これらのin vitroモデルは、GJB2関連難聴の様々な変異に対する最適な治療法の確立や薬剤スクリーニングに有用であると考えられ、国際誌にも論文発表している(Human Molecular Genetics, 2021)。現段階では、更に作製条件を精査することにより、細胞境界にて凝集したギャップ結合複合体を形成する高分化型の細胞シートを作製することに成功している。
2: おおむね順調に進展している
分化誘導法に関し新たな成果を得て国際論文に掲載された。これにより効果的な分化誘導法が確立し、モデル動物への移植実験での応用が期待できるため。
新たに開発した分化誘導法を用いて分化誘導の最適化を行い、内耳細胞治療の将来的な臨床応用を目指す。
新型コロナウィルスによる緊急事態宣言により学会参加旅費が使用不可となったことや、細胞培養等の業務量が減少し、それに伴う消耗品の消費も減少しため。翌年度として、学会旅費の使用再開や細胞培養との業務量を増加させる予定であり、消耗品支出は増加すると思われる。
すべて 2021 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件) 備考 (1件) 産業財産権 (2件)
Human molecular genetics
巻: 30 ページ: 1429-1442
10.1093/hmg/ddab097
Frontiers in Cell and Developmental Biology
巻: 21 ページ: 1-12
10.3389/fcell.2021.602197
Stem Cell Research
巻: 53 ページ: 1-5
10.1016/j.scr.2021.102290
https://med.juntendo.ac.jp/news/20210518-01.html