研究課題/領域番号 |
20K21725
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
市原 佐保子 自治医科大学, 医学部, 教授 (20378326)
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研究分担者 |
及川 佐枝子 (多田佐枝子) 椙山女学園大学, 生活科学部, 講師 (90610585)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / プラスチック / 消化器系 / 炎症反応 |
研究実績の概要 |
海に漂うプラスチックの破片は小さな粒子に砕けていき、マイクロプラスチックおよびナノプラスチックとなるが、これらのヒトへの影響は未だ明らかではなく、生体影響に関するリスク評価が求められている。近年、我が国では、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患の罹患率が増加している。特に、潰瘍性大腸炎は、毎年約5千人ずつ患者数が増加しており、疾患の発症年齢のピークが10-20歳代であることから、生活の質の低下や発がんリスクの上昇という観点からも、我が国において克服すべき重要な消化器疾患である。炎症性腸疾患は、腸内細菌叢に対する免疫応答機構の破綻に加え、遺伝因子や食餌、ストレスなどの環境因子が関与する多因子疾患であることが示されている。最近、経口摂取されたナノ粒子は、消化管内腔の粘膜を通過し、腸管上皮細胞さらに腸管免疫に重要な役割を果たしているパイエル板のmicrofold cell (M-細胞)に取り込まれるとの報告がなされており、ナノ粒子は炎症性腸疾患誘導の過程で炎症反応を増強する可能性が強く示唆される。本研究では、ナノプラスチックによる腸管免疫機構の破綻を介する消化管炎症反応の誘導および増悪作用の機構を解明し、ナノプラスチックの消化管に対するリスク評価法の確立を目指すことを目的とする。本年度は、ヒト腸管上皮細胞:Caco-2に蛍光ナノシリカ粒子を投与し、表面に違う電荷を有するシリカナノ粒子の腸管上皮細胞への取り込みとサイトカインをはじめとする炎症反応に関連する分子の発現を解析し、ナノサイズの粒子による消化管における炎症反応の増強とその作用機序を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト腸管上皮細胞:Caco-2に蛍光ナノシリカ粒子を投与し、表面に違う電荷を有するシリカナノ粒子の腸管上皮細胞への取り込みとサイトカインをはじめとする炎症反応に関連する分子の発現を解析したところ、表面電荷を有するシリカナノ粒子がより腸管上皮細胞に取り込まれ、サイトカインの発現が増強することを明らかにし、学術論文として報告した。また、細胞培養実験にて、酸化チタンナノ粒子の投与にて、単球走化性因子や接着因子の発現が増加することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、蛍光ナノ粒子を利用し、粒子を可視化させることによりその生体内での動態の把握を目指しており、体内動態と生体反応を同時に明らかにしていくことを目指している。今後は、蛍光ナノ粒子(量子ドット)による、ナノ粒子の物性評価および動態の把握と、ナノ素材の結晶構造や表面性状の違いにより影響も違う可能性があるため、結晶構造や表面性状が違う粒子を細胞やモデル動物に投与し、その影響を比較検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、他県への移動が困難であり、研究打ち合わせをwebで実施したため、旅費を計上せず、また、実験も教室に所属する大学院生等で実施することが出来たため、研究補助等に費用が生じなかった。 次年度には、新たに加わったナノ材料の専門家である分担研究者と蛍光ナノ粒子(量子ドット)を作成し、粒子を可視化させ、生体内での動態を把握し、これまでの成果を学会にて発表する予定である。
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