本研究は、オランダ東インド会社とサファヴィー朝との間で結ばれた「合意」を手掛かりに、会社がアジア各地の合意を収集し作成した合意文書集Contractboeken(「契約集」)の性格について分析を行うとともに、20世紀前半に同史料を基にオランダで編纂された、オランダ東インド会社外交に関する基幹史料集Corpus diplomaticum Neerlando-Indicum(『蘭領東インド外交文書集』)について、史学史的検討を加えてきた。 2023年度は、とくに一つ目の課題に取り組んだ。すなわち、長らく延期してきたインドネシア国立文書館での調査が実現し、オランダ東インド会社の「契約集」の研究を進めることができた。2023年度開始までに、会社のアムステルダム支部とゼーラント支部にそれぞれ伝わり、現在オランダ国立文書館に所蔵されている「契約集」を調査し、両「契約集」が、バタフィア総督府の総務局において作成された「契約集」を基に作成されたことがわかっていたが、バタフィア総督府の「契約集」については、『蘭領東インド外交文書集』編纂時にバタフィアの地方文書館('s Lands Archief、現インドネシア国立文書館)において確認され、部分的に利用されて以来、一度も調査が行われず、所在や内容はわかっていなかった。2023年10~11月に実施したインドネシア調査によって、インドネシア国立文書館には、会社期に作成されたと思われる合意文書集が少なくとも9冊保存されていること、その内2冊には実際に「契約集」という名称が記されていることなどが明らかになった。2023年12月、調査結果を2023年度東南アジア学会研究大会において発表した。
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