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2020 年度 実施状況報告書

インフラの時間性に関する人類学的研究:ラオスの流れ橋の事例から

研究課題

研究課題/領域番号 20K22046
研究機関鹿児島大学

研究代表者

難波 美芸  鹿児島大学, グローバルセンター, 特任講師 (20883888)

研究期間 (年度) 2020-09-11 – 2022-03-31
キーワードラオス / 流れ橋 / 民俗土木 / 循環的時間 / 開発
研究実績の概要

本研究はラオス北部ルアンナムター県の黒タイ族の村に存在する流れ橋を対象としている。流れ橋は、乾季になると設置され、雨季になると川が増水し流失する。本研究ではそのような橋への注目を通して、季節の移り変わりと流れ橋の存在/不在によって刻まれる村のリズムと、急速な近代化を経験する当地の社会変化と時間認識のあり方を明らかにしようという試みである。
2020年度は新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け、ラオスへの渡航が不可能となり、専ら文献調査を中心に研究を進めることとなった。2020年度の主たる成果は以下の3点にまとめることができる。(1)当初の研究計画の見直しを行い、調査対象地域以外の伝統的な橋梁建設との比較の視点から文献調査を進めた。今後長期化する新型コロナウィルスの影響も見据え、ラオスへの外国人の入国規制が解除された暁にはスムーズに現地調査を開始し、現地調査の内容をより効率的かつ実り多きものにするため、当初の研究計画に加えるべき調査項目の洗い出しを行なった。調査計画の練り直しに加えて、(2) 従来の時間論における物質の取り扱い、そして技術と倫理との関係について、哲学(特に後者についてはポスト現象学)と人類学の先行研究から文献調査を進めた。また、(3)調査対象であるラオス・ルアンナムター、および「流れ橋」が存在する調査対象村のマジョリティである黒タイ族に関する先行研究のレビュー及び様々な角度からの情報収集を行った。上記の文献研究の内容は、国内・海外の学会で口頭発表し、そこで受けたフィードバックを元に、問いをより明確化させ、また、他の研究分野との学際的なつながりが見出せた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

本研究の遂行には、調査対象とする「流れ橋」が作られる過程や、そこで用いられる資材の栽培・採集方法、橋の使用のされ方や、橋を作る住民たちの生活に関する現地調査を行うことが必須であるため、補助事業期間中は、各年度に一度ずつラオスへ調査渡航することを予定していた。しかし、ラオスでは新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2020年度から現在に至るまで引き続き外国からの入国制限措置が取られている。そのため、現地への渡航を行うことが不可能となったため、2020年度は文献研究を中心に行ってきた。文献研究は、現地調査を実施した上で、最終年度に理論的な基盤を整えるために行う予定であったため、前倒しになったことで、調査対象の現実を還元的に理論に貶める危険性を孕むこととなったといえる。よって、本研究の進捗状況は当初の予定よりもやや遅れているが、文献研究に集中したことで、本研究の関心が他分野との接点において広がりを見せたため、この点は怪我の功名といえる。人間と技術の関係に関する研究としては、「より善い技術」について探究する媒介理論であるポスト現象学的なアプローチの可能性について文献レビューを行い、国際学会(PHTR: Philosophy of Human-Technology Relations研究大会)で発表した。また、近代インフラとは異なる文脈における橋梁と、そこに埋め込まれた時間性、季節や気候との関係について探究する上で行った、本研究が対象とするラオスの流れ橋と、カンボジア・コンポチャム州に存在する流れ橋との比較は今後調査を進めていく上でも有効な視点であると考えられる。これらについては、IUAES(国際民族学人類学連合)、日本文化人類学会の研究大会で発表した。

今後の研究の推進方策

2021年度は、引き続き新型コロナウィルスの影響により、年内のラオスへの調査渡航は極めて難しいものであると予想している。そのため、2020年度の文献研究を通して得られた比較の視点から、日本国内に存在する「流れ橋」や「潜り橋」をはじめとする伝統的なインフラに関する基礎的な調査を行う。また、引き続き、世界に存在する季節性のインフラに関する文献調査を行い、民俗土木技術についての研究を行う。ラオスへの入国が困難な状況が継続するなか、国内の伝統的なインフラや橋梁については、実際に当地に赴きフィールドワークを行うことで、本研究の視座を広げることができる。2022年に入ってから渡航が可能となった場合には、2月にラオスへの渡航を計画し、(1)近代インフラが作り出す「未来」と「過去」、「現在」との関係、(2)伝統インフラが作り出す巡る時間とリズム、変化への対応、という2点の調査項目を設定し、参与観察を行う。(1)では、従来、直線的で発展的な時間認識をもたらすと考えられてきた近代インフラが、人々にどのような過去、未来、現在との関係をもたらし、どのような行動を引き出すのかを明らかにする。(2)では、流れ橋がどのような村の生活のリズムを作り出してきたのか、そして流れ橋の物質的特徴と設置にあたっての協働の在り方を明らかにするため、橋作りの技術と労働、役割分担に関する詳細な記録を取る。渡航が適わない場合には、これまでの調査結果と、国内の民俗土木技術との比較、そして文献調査による結果とを照らし合わせる。これまでの調査結果については、ラオスにいる調査助手とのテレビカンファレンスなどを通して情報の補足を試みる。研究成果はIUAESの国際学会で発表し、論文として『文化人類学』などの学術雑誌に投稿する。

次年度使用額が生じた理由

2020年度は新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け、ラオスへの渡航が不可能となったため、本来であれば助成金の多くの部分を占める旅費の支出がなかった。それだけでなく、国内・国際学会共にオンラインでの開催となったことも関係している。次年度使用額は、国内での調査を予定していることから旅費の支出が増加するため、これに充てる。また、国内での感染状況を見極めながら、国内研究者との研究会議を開催する予定であり、これに関わる支出に充てる。

研究成果

(3件)

すべて 2021 2020

すべて 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)

  • [学会発表] Dealing with environment: Transitions in the Mobility and Materiality of Flexible Infrastructure2021

    • 著者名/発表者名
      Miki Namba
    • 学会等名
      IUAES (International Union of Anthropological and Ethnological Sciences)
    • 国際学会
  • [学会発表] 「気候変動」の時代におけるインフラのテンポラリティ:「流れ橋」の巡る時間と近代インフラの流れる時間2020

    • 著者名/発表者名
      難波美芸
    • 学会等名
      第54階日本文化人類学会研究大会
  • [学会発表] Infrastructure and Human Bodily Transformation in Automobility: To the Interdisciplinary Approach of Anthropology and Philosophy2020

    • 著者名/発表者名
      Miki Namba
    • 学会等名
      PHTR (Philosophy of Human-Technology Relations) Conference
    • 国際学会

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公開日: 2021-12-27  

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