本研究の分析からは、近代日本社会において妻の手作り料理に対する社会的な要求水準が急上昇するプロセスとは、「既婚女性の手作り料理=家族に対する愛情の証」という考え方が日本社会に定着するプロセスと一体だったことが明らかになった。ここからは近代家族における愛情規範が性別役割分業の論理を正当化し、家事の要求水準を上昇させていくメカニズムが、実証的に示されたといえる。また現代日本でも母の手作り料理は「愛情の証」として重視されるが、本研究の知見からは、これが既婚女性の家事時間の軽減を中途半端なものにさせつづけ、共働きの既婚女性の負担感や職業上のジェンダー格差を増大させる一因となっている可能性も示唆された。
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