研究課題/領域番号 |
20K22240
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
神内 聡 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 准教授 (90880302)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | スクールロイヤー / 法務相談体制 / いじめ / 成年年齢 / 学校の働き方改革 / 校則 / 法化 / チームとしての学校 |
研究実績の概要 |
本研究は学校設置者の顧問弁護士とは異なる立場から学校現場で生じる法律問題に関わる弁護士を「スクールロイヤー」と定義し、その実態を量的・質的に調査している。また、本研究は類似の他の研究とは異なり、研究者自身がスクールロイヤーに関する豊富な実務経験を有し、かつ教員として学校現場での勤務経験も有することから、信頼性の高いデータを数多く収集し、表面的な調査だけでは得ることが困難な研究情報にもアクセスしている点に意義がある。 本年度(2021年4月~2022年3月)は、新型コロナウイルスの感染拡大により、残念ながら予定されていた実地調査及びインタビュー調査の大半が中止・延期になった。しかし、研究者自身の弁護士の実務においては、研究成果につながる貴重な案件を担当でき、特にいじめ対応と成年年齢引下げにおけるスクールロイヤーの実務について学術的にも重要な知見を得ることができた。また、スクールロイヤーに関する類似の研究ではほとんどが導入してまだ間もない事例を調査対象としており、実証研究として扱うには困難であるのに比べて、本研究が今年度に調査を実施した事例はいずれもスクールロイヤーを導入してかなりの年数を経たものであり、経験豊富な被調査者にインタビューすることができたことは、学術的な考察が難しい学校の外部人材の効果において、極めて有意義な進歩であると考えている。 さらに、今年度は文部科学省よりスクールロイヤーの導入に関する網羅的な調査データを提供していただいた他、弁護士会で実施された調査も入手することができたため、量的分析に関しても重要な進展があった。こうした研究調査の結果に関連する著作として、本年度は単著・共著・論文・学会でそれぞれ発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度も昨年度同様に、新型コロナウイルスの影響により、予定していた実地調査やインタビュー調査の多くが実施できず、計画の進行が遅れている。そのため、調査対象を減らす一方で、研究者自身のスクールロイヤーの実務上の案件を増やし、アクション・リサーチや自己エスノグラフィー等の分析手法を用いた研究を追加する等、研究計画の一部変更を行った。 本年度はスクールロイヤーの導入例として画期的な事例を4例調査し、担当者のインタビュー調査と参与観察等を行った。中でも全国的に早い段階から弁護士資格を有する職員を任用し、様々な法務を担当する教育委員会の事例と、学校の校務組織に弁護士が参画し、教職員やスクールカウンセラー等の専門職と連携してチーム対応している事例を調査できたことで、スクールロイヤーの形態の多様化に関する仮説を裏付ける知見が得られた。また、本年度はスクールロイヤーによるいじめ対応を中心に研究者自身の実務経験を踏まえた研究を進めたが、成年年齢引き下げに伴う相談案件、校則見直しの動きに伴う案件、教育のデジタル化に伴う個人情報保護に関する案件など、スクールロイヤーが担当する案件が多様化している点にも着目した。 こうした研究活動に基づいて、本年度はいじめ対応に関する論文を2本、教育のデジタル化に関する論文を1本、研究者自身の学級担任経験を対象とした論文を1本、それぞれ執筆した。また、いじめ対応に関しては共著で実務書を1本執筆し、成年年齢引き下げに関しては単著で実務書を1本、それぞれ刊行した。その他にもメディアの取材記事等を通じてスクールロイヤーの実態に関する学術的視点を提供した。 なお、スクールロイヤーをはじめとする外部人材研究では適切な分析手法・方法論の選定自体も重要な研究テーマであるため、本年度は研究活動と並行して、分析手法・方法論に関しても先行研究等の文献調査を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
理論面における本研究課題の今後の推進方策は、他の外部人材に関する先行研究に基づいてスクールロイヤーの形態の多様化の仮説を示すことと、スクールロイヤーの効果を検証するための適切な分析手法と方法論を選定することである。前者に関しては、法制度や学説で規範的に想定されているスクールロイヤーと、様々な利害関係者のニーズに応じた多様な形態が存在すること、そのような多様化は他の外部人材の先行研究からも裏付けられることを示したい。後者に関しては、m-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)やTEA(複線径路等至性アプローチ)等を用いた外部人材に関する先行研究を検討しつつ、研究者自身の実務経験を活用した研究上の知見を示すため、アクション・リサーチや自己エスノグラフィー等の分析手法も採用したい。 理論面における本研究課題の今後の推進方策は、質的研究の対象としてのスクールロイヤーの多様な事例をできるだけ調査することと、量的研究の対象としてのスクールロイヤーに関するデータを入手し、かつ分析することである。前者に関しては、多様な形態を比較分析するだけでなく、スクールロイヤーが担当する案件の多様化と課題についても着目した分析を行いたい。後者に関しては、因子分析や構造方程式モデリング等を用いて、外部人材の研究では活用が難しい因果推論の手法も取り入れながらスクールロイヤーの効果を検証していきたい。 また、本研究では海外研究も予定している。スクールロイヤーに関しては類似の研究において海外における不正確な情報が流布していることも相まって、海外との比較考察が全く進んでいない。日本の教育の特殊性と関連させながら、日本型スクールロイヤーの特徴についても学術的な知見を示したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度も昨年度に引き続いて新型コロナウイルスの影響で予定していた出張調査のほとんどが中止又は延期になり、調査費用として計上していた研究費が執行できなかった。このため、次年度に延期したほとんどの出張調査について、次年度の研究費を使用する予定である。
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