研究課題/領域番号 |
20K22240
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
神内 聡 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 准教授 (90880302)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2024-03-31
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キーワード | スクールロイヤー / オンブズパーソン / 組織内弁護士(インハウスロイヤー) / チームとしての学校 / 子どもコミッショナー / 法化 / いじめ / 多職種連携 |
研究実績の概要 |
本研究の主な目的は、スクールロイヤーと呼ばれる弁護士の職域を研究対象とすることで、弁護士が学校や教師、児童生徒、保護者等の間でどのような関係を築いているのか、また学校現場にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにすることである。本研究は「チームとしての学校」に関わるスクールカウンセラー等の様々な外部専門職を対象とした研究とも比較することや、教師という仕事を弁護士と比較することで、教師の専門職性の特徴を明らかにすることが可能であり、研究の広がりと他分野との対話性も有している。 スクールロイヤーには現在のところ明確な定義がないが、本研究ではスクールカウンセラー等の他の外部人材研究との対話性を図るため、類似職種の学校教育法施行規則上の規定を参照し、「学校設置者の顧問弁護士とは別に、学校における児童生徒に関する法的対応の支援に従事する弁護士」と定義する予定である。 本研究は主に量的分析と質的分析の双方を内容とする。量的分析としては、文部科学省が実施している教育行政に係る法務相談体制の整備等に関する調査結果、日本弁護士連合会が実施した弁護士の学校等への関わりの在り方に関する調査結果、及び公表されているスクールロイヤー事業や子ども権利擁護・オンブズパーソン事業の報告書等を対象としており、多変量解析の手法等を用いてスクールロイヤーの実態を統計的に分析することを試みている。 また、本研究の大半を占めるのはスクールロイヤーをはじめとする学校に関わる多様な弁護士を対象とした質的分析である。文部科学省が想定する教育行政に係る法務相談を担当する弁護士だけでなく、教育委員会職員として勤務する弁護士、教員等の役職で勤務する弁護士、オンブズパーソン等、幅広くインタビュー調査や参与観察を行う他、研究者自身のスクールロイヤー活動に関してもオートエスノグラフィーの手法等を用いて分析対象としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究期間を延長したものの、本年度も大半の時期を新型コロナウイルスの影響で出張等の実地調査が実施できず、インタビュー調査等は大幅に遅れている状況にある。 一方、文献調査に関しては本研究を進める上で重要となる隣接領域の研究が進んだため、様々な文献調査を進めることができた。また、スクールロイヤーの配置も進んでいることから、調査対象や調査事項の見直しを行った。 成果物としては、学校と弁護士の関係を多面的に整理し、スクールロイヤーの専門性・独自性と第三者性・独立性の問題点を指摘した論文と、学校・教員の働き方改革に関する実務書の刊行が重要である。特に前者は本研究の文献調査の集大成と言えるものであり、スクールロイヤーの現状と実態を考察するとともに、分析を行う上での基本的枠組みを示している。 また、本研究に関連して、スクールカウンセラーの労働環境に関するアンケート調査の実施にも関わり、外部人材の置かれた環境について比較考察する上で有用な示唆を得ることができた。メディア等でもスクールロイヤーの実態と課題について、研究者自身の経験と研究で得た知見を示している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目指すところは、スクールロイヤーという弁護士の新しい職域を社会科学的に考察することで、いじめ、保護者対応、児童虐待、不登校、発達障害、教員の労働問題等、学校で生じる法律問題に関して法解釈と規範論が中心だった研究領域について、他領域との対話的な研究を確立するとともに、研究者自身が現職教員とスクールロイヤーとして活動している実務家でもあることから、研究と実務の架橋を目指して臨床的な教育法学の在り方と実務上の有用な知見を示すことにある。 そのため、本研究は様々な学校と弁護士の関係を考察対象とするだけでなく、スクールカウンセラーや養護教諭等の他の専門職の先行研究も広くレビューする予定である。これらの研究領域では、研究者と同じく実務家出身の研究者も少なくないことから、教育学における研究者と実務家の関係についても有用となる知見を示していきたい。海外の先行研究については、主にアメリカの教育法関係の弁護士やスクール・リソース・オフィサー等の法律関係外部専門職、イギリスのフルサービス・コミュニティ・スクール等の多職種・多機関連携のケースを参照している。 また、本研究ではスクールロイヤーの持つ教育的意義についても着目している。本研究で現在のところ得られている知見として、スクールロイヤーは法教育やいじめ予防教育等で他の弁護士とは異なる独自性や専門性を発揮している点がある。さらに、本研究では様々な考察モデルや分析手法を利用することで、法社会学や法と経済学等の隣接領域との対話も試みている。法化理論、シナリオ実験、多変量解析、m-GTA、オートエスノグラフィー、専門職の学習共同体論等、従来の教育法学ではほとんど行われてこなかったトライアンギュレーションも意識することで、学問としての発展に貢献したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度も大半の期間において新型コロナウイルスの影響のため、予定していた出張調査のほとんどが中止又は延期になり、調査費用として計上していた研究費が執行できなかった。このため、次年度に延期したほとんどの出張調査について、次年度の研究費を使用する予定である。
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