明治維新以降における神社境内のもっとも大きな変化は、地券発行に伴う地種区別と上地であったが、数例の複雑な土地所有、借用関係にあったものを除いて東京の神社境内における上地は順調に進んだ。「祭典法用に必需の場所」という観点において、とくに重要といえるのが社務所に関する変化であった。東京における半数の神社では従来の神主神職と異なる人物が神官として補任されていたが、自宅から通勤していた一部の神官を除いて、多くは勤務先の神社の社務所に居住していた。神社と神官が分離されたものの社務所という枠組みが残されたために執務空間と居住空間の分離には至らず、神社境内において神官の居住空間が確保され続けたのである。
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