研究課題/領域番号 |
20K22570
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研究機関 | 新潟食料農業大学 |
研究代表者 |
栗林 喬 新潟食料農業大学, 食料産業学科, 助手 (00775728)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 清酒酵母 / 酒類製造 / カプリル酸エチル / 脂肪酸合成酵素 / 吟醸香 |
研究実績の概要 |
清酒製造において、清酒酵母はその品質を左右する上で重要な香気成分を生成する。既に、カプロン酸エチルや酢酸イソアミルといった吟醸香を高生産する清酒酵母が広く使用されており、市場では清酒製品の画一化が進んでいる。この様な状況の中、清酒酵母から、新たにパイナップル様香気を呈するカプリル酸エチル高生産性酵母の単離に成功した。本研究では、パイナップル様の香りを有する酒類製造を目的としたカプリル酸エチル高生産性酵母の醸造特性の解明と、カプリル酸エチル高生産性酵母の原因遺伝子変異の特定を試みる。 2020年度において、単離したカプリル酸エチル高生産性酵母の清酒小仕込試験による醸造特性解析を行った。その結果、カプリル酸エチル高生産性酵母を用いた製成酒中のカプリル酸エチル濃度は親株の4倍に上昇し、パイナップルやアプリコットを連想するユニークな吟醸香が生成されることがわかった。小仕込試験によって得られた知見をもとに、仕込配合などの最適な醸造条件を検討し、工業的規模の実地醸造試験も実施した。現在、得られた製成酒の官能評価や一般成分/香気成分の解析を行っている。 カプリル酸エチル高生産性酵母の原因遺伝子変異の特定に関しては、カプリル酸エチル高生産性酵母の次世代シーケンス解析の準備を進めるともに、酵母の脂肪酸合成酵素遺伝子に存在するFAS2-F1279Y変異部位の有無を迅速かつ簡便に判定できる系の構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度に実施予定であった計画①「清酒製造におけるカプリル酸エチル高生産性酵母の醸造特性の解明」については、実験室レベルの清酒小仕込試験および酒造場での実地醸造試験を行い、カプリル酸エチル高生産性酵母を用いた製成酒のカプリル酸エチル濃度の向上と、官能審査によってパイナップル様香気を確認できたことから、その目的を達成した。 計画②「カプリル酸エチル高生産性の原因となる遺伝子変異の同定」および計画③「変異部位検出系の構築と新規香気プロファイルを生成する酵母の開発」に関しても、原因遺伝子変異の確認のための次世代シーケンス解析の準備を現在進めているとともに、酵母の交配/育種に必要となるFAS2-F1279Y変異部位の有無を迅速かつ簡便に判定できる系の構築にも成功したことから、本研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度においては、カプリル酸エチル高生産性酵母の原因遺伝子変異の確認と、変異部位の迅速検出法を用いた新規香気プロファイルを有する清酒酵母を開発する。これらの目的を達成するため、以下の②および③の研究の実施を予定している。 計画②「カプリル酸エチル高生産性の原因となる遺伝子変異の同定」では、カプリル酸エチル高生産性酵母の次世代シーケンス解析を行うことによって、FAS2-F1279Y以外の他の変異が存在する可能性を調査し、新たに候補となる変異が得られた場合には、既存の酵母発現ベクター系を用いて解析・同定する。 計画③「変異部位検出系の構築と新規香気プロファイルを生成する酵母の開発」では、FAS2-F1279Y変異部位の有無を迅速かつ簡便に判定できる系を活用し、カプリル酸エチル高生産性酵母から取得したハプロイドを用いて、香気生産性が異なる他の酵母との交配/育種を行ない、交配株の清酒製造における香気プロファイルを調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、当初購入を予定していた、遺伝子解析関連の試薬の購入費が少なく済んだため。また本年度は、オンラインによる研究打ち合わせや学会参加となったため、旅費が不要であった。 次年度使用額の使用計画は、酵母培養のための培養基質や試薬の購入と、現在準備中の英語論文の英文校正費に支出予定である。また、学会参加費や旅費も支出予定である。
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