研究課題/領域番号 |
20K22919
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
江畑 慧 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80884569)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | B細胞 / 全身性強皮症 / 単一細胞解析 / リツキシマブ / 血管内皮細胞 |
研究実績の概要 |
まず、全身性強皮症患者の末梢血中B細胞では、健常人のそれと比較して、血管内皮細胞と接着する細胞の比率が高いことを示した。その傾向は、重症度の高い全身性強皮症患者で、より顕著に認められた。血管内皮細胞と接着するB細胞は、抗血管内皮細胞抗体や抗トポイソメラーゼI抗体を産生する自己応答性B細胞が大半を占めた。全身性強皮症患者の中でも、重症度が高い症例でのみ、血管内皮細胞との接着力が強いB細胞の数が増加していた。血管内皮細胞との接着力が強いB細胞は、炎症性サイトカインIL-6を産生するものが多かった。逆に、血管内皮細胞との接着力が弱いB細胞は、抗炎症性サイトカインIL-10を産生する比率が高かった。血管内皮細胞との接着力が強いB細胞の中でも、IL-6を産生するプロファイルに属するB細胞の集団は、抗トポイソメラーゼI抗体の産生量やBAFF受容体の発現量が多く、病原性の高いB細胞と考えられた。 続いて、トポイソメラーゼI誘発全身性強皮症モデルマウスでの解析を行った。全身性強皮症患者での検討結果と同様に、強皮症モデルマウスでも血管内皮細胞と接着する自己応答性B細胞が末梢血中に増加しており、そのうち血管内皮細胞との接着力が強いB細胞はIL-6を産生する比率が高く、接着力が弱いB細胞はIL-10を産生するB細胞の比率が高かった。強皮症モデルマウスから採取した、血管内皮細胞との接着力が強いB細胞集団を野生型マウスに投与してからトポイソメラーゼIを投与すると、皮膚や肺の線維化の程度が増悪した。一方で、血管内皮細胞との接着力が弱いB細胞を投与した場合では、皮膚や肺の線維化の程度は減弱した。これらの移植実験から、血管内皮細胞との接着力が強いB細胞が、全身性強皮症の線維化の成立において重要な役割を果たしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全身性強皮症患者、全身性強皮症モデルマウスいずれでの検討においても、予定通りに末梢血中B細胞に関する解析を進められている。これまでに得られた成果は、すでに第48回日本臨床免疫学会総会のプレナリーセッションで発表した。 今後さらなる解析を進めていく予定だが、個々のB細胞が産生するサイトカインについて安定して効率的に測定する手順の確立に成功しているので、追加の実験も大きな支障無く進展していくはずである。病原性の高いB細胞集団の候補の特定は済んでおり、実臨床への応用を目指すという意味合いでも道筋がついたと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
全身性強皮症患者検体、およびトポイソメラーゼI誘発全身性強皮症モデルマウス検体のいずれの解析についても、今後n数を増やしていく予定である。特に、実臨床への応用を目指すためにも、リツキシマブ(抗CD20抗体)などの治療に対し抵抗性を示した全身性強皮症患者の末梢血中B細胞について、より詳細な解析を行う。治療抵抗性を示すB細胞集団の特徴を明らかにし、効果的な治療法の開発を目指す。ヒト検体の解析から得られた仮説を踏まえ、強皮症モデルマウスにおいて、抗CD20抗体にどの薬剤を併用すれば病原性の高いB細胞をより効率的に除去できるのか、具体的に検証していく。
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