研究課題
免疫チェックポイント阻害薬の登場は癌治療にパラダイムシフトを起こし、近年、腫瘍免疫微小環境の解明は急速に進んでいる。しかし、腫瘍免疫微小環境形成のメカニズムについては未だ不明な点が多い。本研究は消化器癌における標準的治療である化学療法がもたらす腫瘍免疫微小環境の変動を明らかにし、消化器癌に対する新規バイオマーカーの同定や新規治療の開発を目的とした。胃癌の化学療法耐性化の機序に着目し、1細胞ごとの網羅的遺伝子発現解析を行うシングルセルRNAシーケシング(scRNA-seq)を行った。当科で胃切除術を施行した胃癌症例から採取した腫瘍部を対象とし、術前化学療法 (NAC)の有無によって変化する免疫細胞の機能関連遺伝子発現をscRNA-seqを用いて評価した。その結果、NAC群のCD8陽性T細胞は殺細胞性機能関連遺伝子の発現が有意に高値であったが、同時に疲弊化関連遺伝子も有意に高値であった。また、NAC群の胃癌細胞と制御性T細胞で免疫抑制機能関連遺伝子の発現が有意に高値であった。以上から、胃癌に対する化学療法は免疫原性を高めると同時に、腫瘍は免疫回避機構として免疫抑制環境を形成していることが示唆され、これが治療耐性化の機序の一つである可能性が示唆された。さらに食道癌においてもNACによって変動する腫瘍免疫微小環境を評価し、NACにより抗腫瘍免疫反応が増強することを示した。本研究で明らかにしたNACによる腫瘍免疫微小環境の解明は、化学療法反応性のバイオマーカーや治療標的を検討する一助になると考えられた。
すべて 2022 2021
すべて 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)